会社役員賠償責任保険(D&O保険)について
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<ポイント>
◆D&O保険は役員として適切な人材を確保するために役立つ
◆D&O保険は株主代表訴訟の場合に役立つ
◆非上場会社でもD&O保険は役員にとって役立つ

近時のオリンパスの損失隠しや大王製紙の不正貸付のような企業不祥事が起こると会社に対する役員の損害賠償責任が問題となります。
しかし、役員の中には不祥事について詳しい事情を知らされておらず、殆ど関与していない者もいます。
そのような役員でも取締役会決議に反対しなければ、その決議によって生じた会社の損害について賠償責任を負うのが原則です。会社が直接に役員に損害賠償請求をしなくても、株主代表訴訟により株主が役員に対して個人責任を追及することもめずらしくありません。
そうすると、時には役員は過大な負担を負うことになり、ひいては役員として適切な人材を会社が確保することが困難になる事態も生じえます。
このような事態を避けて役員の個人責任を軽減するために会社役員賠償責任保険が役立ちます。会社役員賠償責任保険は一般にDirectors’ and Officers’ Liability Insuranceの略語である「D&O保険」とよばれます。
なお、役員の責任軽減については責任限定契約もありますが本稿では割愛します。

D&O保険には「会社役員賠償責任保険普通保険約款」(「普通保険約款」)による基本契約部分と「株主代表訴訟特約条項」などの特約部分があります。
役員が損害賠償責任を負う以下のケースのうち、(1)は普通保険約款により、(2)のうち株主代表訴訟による場合は株主代表訴訟特約により付保(保険でカバー)されます。
(1)故意・重過失による任務懈怠または書類等の虚偽記載等により第三者に損害を与えた場合(会社法429条)
(2)任務懈怠により会社に損害を与えた場合(会社法423条1項)等
D&O保険契約では、特約も含めて、会社は保険契約者、役員は一括して被保険者となります。通常、普通保険約款に株主代表訴訟特約を加えた保険契約がされます。
ただし、普通保険約款による基本契約部分の保険料は会社が負担しますが、株主代表訴訟特約部分の保険料は役員が負担します。
なお、保険会社によって様々な特約があり、会社、役員のニーズにしたがった特約をつけることができます。

D&O保険の被保険者は、保険証券に記載された役員及び子会社(ただし、海外子会社は対象外となることが多い)の役員です。
保険期間は通常1年間ですが継続することができ、保険契約が継続されていれば、最初の契約(初年度契約)の保険期間開始日以後に退任した役員も継続されたD&O保険の被保険者となります。

D&O保険では、保険期間中に役員に対して損害賠償請求がされた場合、保険会社は「法律上の損害賠償金」や「争訟費用」(約款ではこれらをあわせて「損害」としており本稿でもこれに倣います)を役員に填補します。
損害賠償請求の原因となる行為を役員が行ったときではなく、損害賠償請求がされたときに保険契約がされていなければ「損害」は填補されないことに注意しなければなりません。
また、役員が私的利益を得たことや役員による犯罪行為に起因する、または放射能汚染等のような特殊な危険に起因する損害賠償請求などについては、役員の「損害」は填補されません。
さらに、法令に違反することを役員が認識しながら行った任務懈怠等の行為に起因する損害賠償請求について「損害」の填補はされません。ただ、重過失による場合には、原則として「損害」は填補されます。
D&O保険により填補される「損害」は、確定判決で支払いを命じられた損害賠償金、和解により定められた損害賠償金及び弁護士費用等です。
和解は訴訟上の和解に限られませんが、損害賠償金額につきあらかじめ保険会社の「書面による同意」が必要であることには注意を要します。
なお、多くのD&O保険では「免責」、「縮小填補割合」という「損害」のうち役員の自己負担割合が定められています。

D&O保険は、主として、上場会社において株主代表訴訟がされた場合に役員の負担を軽減するために有効です。冒頭の会社不祥事の例でも、取締役会決議に反対しなかった役員が法令違反を認識していなかった場合には「損害」が填補されるからです。
これに対し、上場会社でない中小企業の場合は株主代表訴訟のリスクはほとんどないことも多く、D&O保険のメリットは乏しいようにみえます。
しかし、取引先等の第三者が役員に対して損害賠償請求をする場合にはD&O保険が有効なこともあります。役員に故意はなく重過失だけしか認められない場合には、原則としてD&O保険により「損害」が填補されるからです。
上場会社でなくともD&O保険の導入を検討することは有意義であろうと思います。