【西武鉄道上場廃止事件が提起した二つの問題】
最近の企業不祥事として最も話題になったのは西部鉄道の上場廃止に関する事件だと思いますが、今回の法律トピックスでは、一連の事件で問題となった、有価証券報告書の虚偽記載防止の制度と、情報の透明性確保への対応方法について説明します。
【有価証券報告書の機能】
有価証券報告書とは、主として上場している会社が、一般投資家の投資判断に必要な詳しい情報を記載した書類です。政府に提出され、また、内閣府、会社の本店及び主要な支店、証券業協会に備えおかれ、一般投資家が閲覧できることになっています。
このように、有価証券報告書は一般投資家が投資判断をする際の決め手の一つという建前ですので、その内容が正しいことが保証されていなければなりません。
そのため、証券取引法には、重要な事項について虚偽の記載がある場合、それによって損害を蒙った者は、会社、会社の役員、公認会計士等に対して損害賠償請求をすることができると定められています。さらに、虚偽の記載をした有価証券報告書を提出した者は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金という刑罰も課せられています。その他にも行政からの課徴金、自主規制機関である証券取引所の上場廃止等のペナルティーが課せられることもあります。
【宣誓制度】
それでも有価証券報告書への虚偽記載は後を絶たず、アメリカで起こったエンロンやワールドコム事件のように株式市場に対する信頼を揺るがせるような大事件に発展することもあります。
このため、有価証券報告書に対して最高責任者がその内容に誤りがないことを宣誓した上で署名するというやり方で心理的に内容が正しいことを保証させ、かつ、責任の所在を明確にする制度が取り入れられました。これは、アメリカで上記事件をきっかけに制定されたサーベンス・オクスリー法(一般には企業改革法と訳されているようです)の規定を参考にしたもので、日本でも東京証券取引所の規則として取り入れられました。
【内部統制による透明性確保】
また、最近、内部統制という考え方も頻繁に紹介されるようになってきました。内部統制とは、大雑把に言えば、企業内部に存在するリスクを把握し、それに対処するシステムのことです。
リスクの存在は企業に関する重要な情報ですので、内部統制が確実に機能していることが、有価証券報告書など企業の内容を開示する情報が正しいことを保証するシステムの一つとして位置づけられると思います。アメリカでは、サーベンス・オクスリー法で、一般に承認された会計原則に従って財務諸表が正しく作成されることを保障する手続きとして、その詳細が定められています。これは、上記と同様に、日本でも東京証券取引所において取り入れられているようです。また、平成16年12月8日に法制審議会から出された「会社法制の現代化に関する要綱案」でも、内部統制システムについての概要を営業報告書に記載しなければならず、大会社では内部統制システム構築の基本方針の策定を義務づけることになっています。これは、早ければ平成17年4月に施行が予定されている新会社法に盛り込まれる予定です。
【内部告発制度の積極的活用】
ところで、企業の不祥事が明るみに出て、スキャンダルとなるケースの相当割合が内部告発によるものであると想像されます。
内部統制が十分に機能するためには、内部告発に対応する制度の存在が重要です。内部告発については、公益通報者保護法が平成16年6月16日に制定され、平成18年にも施行される予定であり、内部告発者に対して不利益が生じないようにしています。
もっとも、外部の専門家を使って告発者の秘密等を保護して積極的な情報提供を促す等により内部告発を積極的に活用して企業情報の透明性を高めていく努力は、各企業が独自に行わなければならないものです。