HOYAとの合併を巡って意見対立のあったペンタックスの取締役会において、合併を推進していた浦野文男代表取締役が4月10日解職されたとの報道がありました。これに伴い、合併に反対していた綿貫宜司取締役が新しい代表取締役に選定されたとのことです。ただ、浦野氏は取締役としての地位は残るとのこと。
本稿では今回のニュースをもとに株式会社における代表取締役や取締役の地位について再確認してみます。
会社法上、全ての株式会社が必ず設置しなければならない機関は、株主総会と取締役(1人又は2人以上)に限定され、取締役会さえ原則任意の機関とされています。機関設計の自由度を高めるのが会社法の思想だからです。
ただし、公開会社(全ての株式が譲渡制限付きでない会社)の場合は取締役会の設置が義務付けられています。
株主が株式を自由に譲渡できるというのは株式会社のそもそもの基本思想です。つまり、会社に対する所有権を株式という単位に分割し、その株式がいつでも譲渡可能であるということを保障すれば、一般公衆から多額の資金を集めやすくなり、その資金によって大規模な経営が可能になるのが株式会社ということです。そのような場合に株主は、株主総会を通じて、経営のプロである取締役を選任し、取締役に経営を任せるのが合理的というのが基本思想です。これを「所有と経営の分離」といいます。
ただ、取締役に意思決定・業務執行全てを委ねてしまうと権限濫用のリスクがあります。この点、非公開会社の場合だと、株主は基本的に変動しないので、取締役を監視するにしてもそれは株主総会が直接すればよい。ところが、公開会社の場合は、株主が変動することから、株主総会が常時直接的に取締役を監視するわけにもいかない。そこで、公開会社の場合は、複数(会社法では3人以上)の取締役でもって取締役会を構成させ、これを意思決定機関と位置づけると共に、業務執行権限を有する代表取締役の選定・解職権限を与えてこれをコントロールさせることにしたということになります。
そうすると代表取締役の選定・解職権限を有するのは取締役会ということになります。改正前商法では、取締役会決議をもって代表取締役を定めなければならないことのみ規定されており、解任(代表取締役の解職という言葉は会社法で新設されたものです)についての明文の規定はありませんでしたが、選定権限を有する以上、解任権限を有するのが当然と解されていました。会社法は代表取締役の選定・解職権限が取締役会にあることが明記されています。
ペンタックスの前社長はこの規定に基いて取締役会において解職されたということでしょう。ただ、取締役を選任・解任するのは株主総会の重要な権限として保留されていますので、代表取締役の地位を失うことが即取締役の地位を失うことにはなりません。逆に取締役の地位がなくなれば代表取締役の地位もなくなります。