<ポイント>
◆当事者でなくとも裁判記録を閲覧・謄写できる場合がある
◆関連事件の記録から情報をさぐりあてるのも弁護士のテクニック
情報収集のノウハウも弁護士に問われる能力のひとつです。
令状による強制捜査の権限をもつ警察・検察と異なり、じつは弁護士には情報収集のために制度的に認められた職務権限はほとんどありません。
制約のなかでどれだけ情報をとれるかが弁護士の実力の見せどころでもあります。
重要な情報収集の方法として裁判記録の閲覧・謄写があります。
依頼を受けた案件に関連する他の事件が裁判になっている場合、そうした関連事件の記録を裁判所で見せてもらうのです。
訴訟事件の記録は原告・被告以外の第三者にも公開されており、資格を問わず誰でも閲覧することができます。
事件当事者のプライバシーへの配慮から、謄写(記録をコピーすること)については利害関係人であることを立証しなければ行うことができませんが、少なくとも閲覧申請をして記録を見せてもらうところまでは誰でも可能です。記録を見ながらメモをとることもできます。
また、訴訟以外の裁判手続、たとえば倒産事件、家事事件などでは、記録の閲覧についても利害関係人であることを示す必要があります。
記録の閲覧・謄写を申請するために弁護士資格は要求されません。ただ、膨大な事件記録の中から情報を取捨選択して吟味することは、法律知識なしには容易ではないでしょう。
こうした閲覧・謄写請求の手続を通じて、自身が依頼を受けた事件の解決のために有効な情報を得ることができます。
たとえば、交渉案件の相手方が倒産会社の管財人であるという場合、裁判所で倒産事件の記録を閲覧することで、管財人がどのようなことを考えているのか推測できます。管財人が裁判所に提出する報告書には、倒産会社の資産を管財人がどのように評価しているか、倒産手続の進行予定がどうなっているかなどが記載されています。
そうした記録を検討することで、眼前の交渉案件に関しても、管財人が早期解決のために譲歩もやむなしと考えているのか、あるいは腰を据えてじっくり取り組んでいこうとしているのかなどが推測できます。
クライアントと同種被害を受けた他の被害者がすでに加害者に対して訴訟提起しているという場合、そうした同種事件のなかで加害者がどのような主張をしているのかを見ておけば、今後の加害者側の主張内容、それに関する証拠の有無などについて見通しがたちます。
あるいは、複数関係者の間で権利・義務が錯綜している案件では、相手方はひょっとすると場面場面でコロコロと言い分を使い分けているかもしれません。関連事件の記録をチェックして相手方の二枚舌を指摘することで、こちらの主張の信用度はぐっと高まります。
相手方に請求したいが手許の資料だけでは確たる立証材料にならないという場合、関連事件記録の謄写が認められればそれを証拠として活用することもできます。
このように、関連事件の記録の閲覧・謄写を行うことで有効な情報収集となる場合は少なくありません。
相手方の反論を予想して勝訴の可能性をある程度見きわめたうえで訴訟提起するかどうか決めたいという場合などでは特に有用です。
また、訴訟記録であれば利害関係の有無を問わず閲覧できるので、弁護士が自身のスキルアップのために研究目的で閲覧することも可能です。
法律雑誌には判例として参照価値が高い判決文が紹介されていますが、弁護士の主張内容は詳しくは紹介されないケースが多いです。
専門性が高い分野や劇的な逆転判決が出た事件などでは、裁判所に自説を認めさせるために弁護士が工夫をこらして訴訟遂行しています。訴訟記録を閲覧することで他の弁護士の仕事から学び、自身のスキルアップにつなげることができます。