<ポイント>
◆公取委の勧告は10件・指導は半期として過去最多の2932件
◆下請法違反の一企業支払額として過去最大の39億円
◆自主申告の場合は、勧告されないとの公取委の方針
公正取引委員会は10月24日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)について平成24年度上半期(4月~9月)の運用状況を発表しました。これによれば、親事業者の下請法違反を認定して、下請業者の利益保護のため必要な措置をとるよう勧告した件数は10件ありました。前年度上半期は6件であり、増加傾向にあります。
また、勧告には至らない、指導の件数は半期として過去最多の2932件ありました。
勧告は、指導とは異なり、下請法7条に基づく法的手続きとしてなされるものです。
違反行為の内容と併せ、当然に企業名も報道発表され、公正取引委員会のホームページに掲載され続けることになります。企業にとって不名誉であり、信用が害されることになります。
一定の企業規模格差がある企業間において、商品の製造や修理、プログラミング、サービス提供などを委託する取引がなされる場合、弱い地位にある下請事業者を保護するのが下請法です。このような委託先事業者(下請事業者)を、発注者(親事業者)による優越的地位の濫用から守るための法律です。正常な商慣習上不当な要求にも、これに応じざるを得ない地位にある下請事業者を保護するため、下請法違反の行為が定められています。親事業者がこれらに違反した場合、指導や勧告を受けることになります。
今年上半期の10件の勧告件数のうち、下請代金減額のケースが10件(※1件の勧告で複数のパターンが認定されているため)ありました。「値引き」、「歩引き」、「事務手数料」、「リベート」などの名目で、下請代金を事後的に減額するものです。在庫商品を引き取らせる「不当返品」が4件、その他、下請事業者に何らか経済上の利益を不当に提供を求めるケースが4件ありました。不当返品の送料まで負担させたケース、(自ら行うべき)発注データの入力作業を無償でさせたケースなどです。
これら違反事例を読めば、なぜ不合理な取引がなされるのか疑問がわきます。
ただ、これら10件のうち8件はプライベートブランド=PB商品の製造委託のケースです。メーカーのブランド、特に全国的に有名なブランド、いわゆるナショナル・ブランド=NBの商品に比べて、PB商品は販売業者自らが企画し、自らのブランドで販売するものとして、安価で消費者に提供されています。
一定の品質を保ちつつも、このデフレ化の状況下では安い価格こそがPB商品の売りなので、販売事業者はできる限り製造コストを抑えようとするでしょう。
ここで販売業者側からすれば、通常のメーカーとは異なり、製造委託先事業者(下請事業者)へのコントロールはある程度許されるという意識が強いせいか、委託先事業者と合意しさえすれば問題ないと誤解するせいか、下請代金を正当な理由なく事後的に減額するに至ってしまうようです。
勧告事例10件のうちの1件、日本生活協同組合連合会の事例では、「コープ」ブランドの食料品等を組合員への値引き販売をする際に、その値引き額の一部を下請事業者に負担させていたということです。生協連側のコメントして「書面を交わして業者に応じてもらったので、違反との認識はなかった。」と報道されています。仕入れた商品が売れなくっても、そのリスクを販売業者が負うのは極めて当然ですが、PB商品など製造委託のときは別の意識が働くのかもしれません。そこに合理性はありません。下請事業者に負担を負わせているという意識はありながら、違法性の意識は薄いのでしょう。
しかし、近年公取委が下請法の執行を強化していることは、これまでも触れてきました。公取委によって指導、勧告を受ければ、違反企業は、減額を受けた金額や遅延利息を支払うことになります。指導、勧告によって、不当な減額分の支払いは、この上半期で61社で31億1314万円です。平均すれば約5100万円に上ります。減額分を支払う際には遅延利息14.6%を支払わなければなりませんが、これは45社で13億7316万円です。平均すれば、約3000万円に上ります。前述の生協連の場合、不当減額分25億7千万円、遅延利息13億3千万円、合計39億円を支払ったとされ、これは下請法違反で過去最大の額とのことです。
このように公取委によって下請法違反と認定された企業は大きな打撃を受けることになります。
公取委は下請法を促進するため、講習会を盛んに開催し、親事業者、下請事業者双方に定期的に書面による調査を実施しています。下請事業者からの自主的な申告が難しいからです。
このような環境の下では、下請法違反行為はいずれ明るみになると考えておく方が賢明です。
取引の現場で下請法が正しく理解されていること、委託先事業者との取引で不当な負担を負わせていないかを社内でチェックすることが重要です。内部通報システム(ホットライン)の活用もこれに役立ちます。
なお、親事業者から自主的な申告をした場合、公取委は、勧告まではする必要がない、という方針を打ち出しています。企業名の公表を免れることができ、リニエンシー(課徴金減免制度)に似た運用がなされています。