<ポイント>
◆物理的全損の場合の車両時価額や評価損の損害賠償請求権についても、車両の交換価値を把握する所有者に帰属するのが原則
◆所有権留保車両の買主について、事故後に残代金を完済した場合には損害賠償請求権が認められる場合がある
◆リース車両のユーザーについては、明示または黙示の合意がある場合に限られる
本稿では、前回に引き続き、車両の使用者からの損害賠償請求のうち、物理的全損の場合の車両時価額と評価損について解説します。
3 物理的全損の場合の車両時価額について
(1)所有権留保車両の場合
物理的全損の場合、残代金の完済前は、交換価値を把握する売主が損害賠償請求権を取得しますが、事故後に買主が残代金を完済した場合には、損害賠償請求権を代位取得するとした裁判例があります(東京地裁平成2年3月13日判決)。
(2)リース車両の場合
(1)と異なり、リース車両が物理的全損となった場合には、交換価値を把握するリース会社が所有権侵害による損害賠償請求権を取得し、ユーザーに損害賠償請求権が認められることはありません。
4 評価損について
評価損とは、一般的に、事故当時の車両時価額と修理後の車両時価額の差額をいいます。修理技術上の限界から性能や外観が完全に原状回復できていない場合や、十分な修理がされて修理の直後には不具合がなくても、将来的に不具合が発生する可能性が高い、隠れた損傷があるかもしれない、事故車両は縁起が悪いなどという懸念がある場合にこのような差額が発生します。
(1)所有権留保車両の場合
評価損はまさに車両の交換価値にかかわる問題ですので、代金完済前には原則として売主や信販会社等の所有者に評価損の損害賠償請求権が帰属します。ただし、所有権留保権者が立替払いを行った信販会社である場合について、代金完済前であっても、評価損に係る損害賠償請求権につき、使用者に帰属させ、使用者において行使するとの黙示の合意がなされていると認めるのが相当である、と判断した裁判例も存在します(大阪地裁平成27年11月19日判決)。
また、事故後に買主が残代金を完済した場合については、売主等が加害者からの損害賠償の支払を受けているか否かによって結論が異なります。売主等が未だ支払を受けていない場合には、評価損についても買主が損害賠償請求権を取得し、他方で、売主等が既に支払を受けている場合には、加害者に対する関係で二重取りとなってしまうことから、買主は加害者に請求することはできず、既に賠償を受けた売主等に対して評価損相当額の支払を求めることができるのみであると考えられます。
(2)リース車両の場合
3項と同様に、交換価値を把握するリース会社が損害賠償請求権を取得し、ユーザーに評価損の損害賠償請求権が認められることはありません。
なお、リース会社とユーザーとの間で、評価損の損害賠償請求権をユーザーに帰属させるとの明示または黙示の合意が認められる場合には、ユーザーからの損害賠償請求が認められることになります。