<ポイント>
◆車検証上、車両の所有者と使用者が異なる場合はよくある
◆車両に関する物損の損害賠償請求権は所有者に帰属するのが原則
◆使用者にも修理費用・代車費用の損害賠償請求権が認められる
分割払いで車を購入した場合、未払いの売買代金の回収を担保するため、代金が完済されるまでの間、売主である自動車販売店(場合によっては信販会社)に車の所有権が留保されることがよくあります。また、リース会社が車を購入してユーザーに貸し渡し、ユーザーが賃料を支払うカーリースもメジャーになっています。このような場合、車検証上は、売主やリース会社が所有者、買主やユーザーが使用者とされることになります。
交通事故により車両が損傷した場合、通常は所有者が事故の相手方に対する損害賠償請求権を有することになりますが、上記のように車両の所有者と使用者が異なる場合、使用者からの損害賠償請求は認められるのか、所有者は車両の交換価値を、使用者は車両の使用価値を把握していると考えられるため、問題となります。
本稿では、まず、修理費用と代車費用について解説します。
1 修理費用について
使用者が実際に修理をして、修理費用を支払った場合には、所有者は実質的に修理費用相当額の支払を受けたものと考えられるため、使用者は所有者が事故の相手方に対して有していた修理費用相当額の損害賠償請求権を代位取得することができます。
また、所有権留保車両について、売主は未払いの代金債権を担保する目的で所有権を留保し、買主は売主に対して担保価値を維持する義務を負っていることから、買主は車両を修理する義務を負います。また、リース車両についても、リース契約上、ユーザーが修理義務を負うと定められていることが多く、この場合、ユーザーは車両を修理する義務を負います。
つまり、使用者が未だ修理をせず、修理費用を支払っていない場合においても、実際に使用者が自ら修理し、修理費用を負担する予定があれば、修理義務を負う使用者に修理費用相当額の損害が発生したといえ、使用者からの修理費用相当額の損害賠償請求が認められます。
なお、全損には、修理不能による物理的全損と、修理費用が車両時価額を上回る経済的全損の場合がありますが、後者の場合、実際に修理がされてそのまま使用されることも多く、この場合には同様に、使用者からの車両時価額の損害賠償請求が認められることになると考えられます。
2 代車費用について
代車費用は車両の修理または買替えに要する期間中、実際に代車を使用し、代車費用を負担したときに認められるものですので、使用価値を把握する使用者に代車費用の損害賠償請求権が帰属します。