不正な情報伝達・取引推奨に対する社内対策を
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<ポイント>
◆近い将来、不正な情報伝達行為や取引推奨行為が規制対象となる可能性あり
◆取引者自身は規制違反にならず、取引推奨者のみが規制違反となる場合もありうる
◆社内の情報管理のため、より一層の役職員の教育の充実を

証券取引等監視委員会によれば、第一次情報受領者(会社関係者等、公開買付者等関係者等から直接に重要事実の伝達を受けた者)によるインサイダー取引規制違反が増えています。
第一次情報受領者によるインサイダー取引規制違反としては、昨年、上場会社の公募増資に際し、引受け主幹事証券会社の営業職員による情報伝達に基づいたインサイダー取引事案が発生しました(詳細は、当職執筆の法律情報「インサイダー取引を誘発させないよう社内の情報管理を」参照)。
そこで、不正な情報伝達をいかに抑止していくかが重要な課題となってきました。第一次情報受領者によるインサイダー取引は、情報伝達がなければ生じることはないからです。

金融庁の委嘱を受けたインサイダー取引規制に関するワーキング・グループは、平成24年12月25日に「近年の違反事案及び金融・企業実務を踏まえたインサイダー取引規制をめぐる制度整備について」というタイトルで報告書を公表しました。
同報告書によれば不正な情報伝達・取引推奨行為(たとえば上場会社の内部情報を知り得る立場にある者が未公開の重要情報の存在を仄めかして当該会社の株の取引を推奨すること)に適切な抑止策を設ける必要があるとされています。
その理由として、先述したことに加えて、金融取引がグローバル化する中ではアメリカ、ヨーロッパの諸外国とインサイダー取引規制状況が同等であることが重要であることが挙げられています。
また、不正な取引推奨行為を対象とするのは、情報伝達と同様に証券市場の公正性・健全性に対して投資家に不信感を起こさせるおそれがあるからとされています。
このように、不正な情報伝達・取引推奨行為がインサイダー取引規制違反となるよう法改正される可能性が高くなってきました。

不正な情報伝達・推奨行為」の「不正な」の正確な意味は、現段階では不明であり、今後の議論の進捗により明らかになるものと思います。
私見では「不正な情報伝達」とは「第一次情報受領者が取引を行った場合にインサイダー取引となる情報伝達」をいうものと理解できると思います。
一方、「不正な取引推奨」に関しては、上場会社の未公開の重要事実の伝達を受けることなく取引推奨を受けた者が当該会社の株の取引をしたからといってインサイダー取引規制違反になるのか疑問があります。
そうすると、「不正な取引推奨」には取引者自身はインサイダー取引規制違反にならない場合が含まれる可能性があると思います。
この点については、ワーキング・グループでも余り議論されていないようですが、取引推奨を受けた者が、取引推奨者が知っていた未公開の重要情報の伝達を受けて取引をすればインサイダー取引規制違反になる場合をいうものと考えられると思います。
なお、上場会社における情報のやりとりの重要性(業務提携交渉やIR活動など)に配慮して、「取引を行わせる目的」等の主観的要件を設けること、不正な情報伝達や取引推奨が投資判断の要素となって実際に取引が行われたことを要件とすることが適当であるとされています。

以上のとおり、同報告では、情報伝達・取引推奨行為がどういう場合にインサイダー取引規制違反となるかについては未だ明確にはなっていません。
しかし、不正な情報伝達・取引推奨行為を抑止する方向にはあると考えられますので、企業はそれをにらんで社内対策を立てる必要があります。
これまでは、重要事実の伝達や取引推奨はインサイダー取引規制の対象となっていませんでしたので、インサイダー情報を知っている者が第一次情報受領者の歓心をかいたい場合には安易に情報を漏らしたり、取引推奨したりする可能性があったと思います。
また、自社の役職員に対し自社株についてインサイダー取引をさせないよう社内規制や役職員教育に熱心に取り組んでいても、インサイダー情報の漏えいや取引推奨に対しては後手に回っている可能性もあります。
企業は知る必要のある人にのみ重要事実に関する情報を知らせるよう情報管理を厳格にしなければなりません。
その上で、不正な情報伝達や取引推奨は賄賂と同じであり、そのような方法によって成果を上げてもトータルでは自分の利益とはならないことを繰り返し、平易な言葉で役職員教育をしなければなりません。
また、ある情報がインサイダー取引規制の対象たる未公開の重要事実となるには、必ずしも取締役会などの正式な機関で決定されることを要するものではなく、実質的にこれらと同視しうる機関による決定であれば足ります。
まだ未公開の重要事実となっていないと勘違いして、うっかり取引推奨行為をすることは十分に可能性があることですので、未公開の重要事実となる時点については役職員に十分に理解させておく必要があります。