今回は不動産の賃貸借契約について、借り手側の税務処理を確認します。
1.契約締結時
賃貸借契約の開始時には、貸主や不動産業者に対して、一般的に家賃のほか、敷金・礼金や保証金などの支払いが発生します。これらはそれぞれ会計処理方法が異なり、また、税務上の損金になるかどうかも取扱いに違いがあります。
(1)敷金、礼金、保証金
敷金、礼金や保証金については、その名目にかかわらず、契約解除時に返還が予定されているか否かにより、処理が異なります。
①契約解除時に返還されるもの
帳簿上は、敷金、保証金などの勘定科目で資産計上することとなります。
②契約解除時に返還されないもの
礼金などは将来返還されるものではないため、損金として処理することとなります。しかし、賃借期間にわたって効果があるものと考えられるため、単純な損金とはならず、以下のような処理となります。
(イ)支払額が20万円未満の場合
支払時に全額が損金となります。
(ロ)支払額が20万円以上の場合
支払時には繰延資産として資産計上し、決算時に賃借期間のうち当期に対応する部分を当期の損金として償却します。償却期間は賃借期間(5年以上の場合には5年)とされます。
(2)土地の賃借に関する権利金
建物を建てることなどを目的として土地の賃借をするにあたり、権利金の支払いをした場合には、その支払金額は損金とはならず、原則として借地権という無形固定資産として処理します。この借地権は土地に類する性格を持っていることから、土地と同様に、償却されず借地権を有している限り貸借対照表の資産の部に計上されることとなります。実務上問題となるのは、借地権としての適正額を権利金としては支払わず、無償や安い権利金で土地を使用している場合です。権利金を収受する慣行があるにもかかわらず権利金を支払っていないようなときは、その分経済的利益を享受しているものとして、その経済的利益に対する認定課税が行なわれます。ただし、次のいずれかに該当する場合には、権利金の認定課税は行なわれません。
①その土地の価額からみて、相当の地代(※)を収受している場合
(※)土地の賃借時には一般的に権利金と通常の地代の授受がありますが、親族間での賃貸借などの場合には権利金の授受がない場合があります。その場合、借主は権利金を支払っていないため、権利金相当額を含んだ通常の地代より高い地代を支払わなくてはなりません。このときの地代を「相当の地代」といい、土地の価額×6%で計算します。
②その借地権の設定等に係る契約書において、将来借地人がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、「土地の無償返還に関する届出書」を提出している場合
なお、②の場合、実際の地代が相当の地代より少ないときは、その差額に相当する利益があるものとして取り扱います。
(3)賃借物件に内部造作を加えた場合
店舗や事務所用として賃借をした物件に対して造作等を行なうことがあります。スケルトンの物件を賃借して飲食店を始めるような場合、厨房設備やカウンターなど様々な造作が必要です。
そのような造作は賃借側の資産とされ減価償却を行ないます。その場合には造作全体を1つの資産として償却することとなります。その際の耐用年数は、その造作をした建物の耐用年数、その造作の種類、用途、使用材質等を勘案して合理的に見積もることとされています(賃借期間の定めがあり、その賃借期間の更新ができないもので、かつ有益費の請求または買取請求をすることができないものは、その賃借期間を耐用年数とすることができます)。
(4)その他の経費
①仲介手数料
役務提供は契約締結時に完了しているため、支払時に損金として処理します。
②火災保険料
1年を超える期間にわたる契約の場合には、期間配分して損金に計上します。
③印紙代
建物の賃貸借契約には印紙税はかかりませんが、土地の場合には印紙税が課されます。
2.契約期間中
(1)賃料
賃貸借契約にしたがって支払う家賃や地代は損金となります。共益費や管理費がある場合にはその金額も家賃に含めて計上します。
損金に計上するタイミングは、役務の提供を受けた日とするのが一般的です。いわゆる前家賃のように、3月決算の会社が4月分の家賃を3月中に支払うような場合には、事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの(ここでは4月分の家賃)は支出したときに前払費用として資産に計上し、実際に賃借した翌期に役務の提供を受けたものとして損金の額に算入されます。しかし、法人税基本通達において「短期前払費用の特例」というルールが定められており、以下の要件①②に該当するものは、役務の提供が完了していなくとも、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
①前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った
②その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入している
(2)更新料
賃貸借契約の更新の際に支払う更新料は、その更新をする対象が借地権かそれ以外かによって取扱いが異なります。
①借地権以外(建物など)の更新の場合
礼金と同様の取扱いとなり、20万円未満であれば全額が損金、20万円以上であれば繰延資産として償却計算をすることとなります。
②借地権の更新の場合
借地権の更新料は、基本的には借地権の帳簿価額に加算されることとなります。これに加え、その加算と同じタイミングで「以前からの借地権の価値減少部分」に相当する金額が借地権の帳簿価額からマイナスされることになります。
3.契約解除時
(1)立退料
賃借している建物の取り壊しなどの理由によって立退料を受け取った場合には、その金額は益金の額に算入されます。
(2)原状回復費用
退去に伴って原状回復費用が必要な場合には、その原状回復費用は損金となります。貸主が原状回復を行ない、その金額を返還される敷金から差し引いているような場合でも取扱いは同じです。