下請法上の「受領拒否の禁止」にご注意を

<ポイント>
◆下請法は委託先からの商品等の受領拒否を禁止する
◆カタログ販売業者の違反事例がある
◆大規模小売業者と納入業者の取引に関するガイドラインに触れるおそれも

下請法は親事業者が下請事業者に責任がないにもかかわらず、下請事業者から商品やサービスの受領を拒否することを禁止しています。
親事業者、下請事業者とは商品の製造などを委託する取引関係にあって、資本金を基準とした企業規模格差のある場合の相対的な関係をいいます。商品(物品)の製造、修理の委託の場合ならば、発注側が資本金3億円超で、受注側が資本金3億円以下(個人なら無条件)ならば、発注側が「親事業者」、受注側が「下請事業者」となります。受注側が資本金1000万円超3億円以下、発注側が資本金1000万円以下(個人なら無条件)の場合も、発注側が「親事業者」、受注側が「下請事業者」となります。
下請法の適用があるためには「委託」取引であることが必要です。発注側が商品などの品質、形状、規格、性能、デザイン等を定めて、その製造を依頼すれば、それは委託取引となります。スーパーやコンビニエンスストアが自社ブランドで販売するPB(プライベートブランド)商品の製造を他社に発注するのがその典型でしょう。

下請法は独占禁止法、なかでも不公正な取引方法(優越的地位の濫用)規制の特別法といわれています。下請代金の不当減額事例について公正取引委員会の勧告が発せられるケースが近時多いので、このメルマガでもよく取り上げましたが、今回は「受領拒否の禁止」に関するケースをご紹介します。

カタログ通信販売大手の株式会社フェリシモ(資本金18億円超。東証一部上場)が今年3月29日、下請法上の受領拒否の禁止に違反したとして公正取引委員会から、拒否していた商品を受領すること、以後下請法の遵守体制を整備することなどを勧告されたことが公表されています。

フェリシモは衣料品や雑貨等の製造を資本金3億円以下の事業者に委託しています。なお、フェリシモは女性服などのカタログを有料または無料で消費者に配布して、そのカタログをみた顧客からの注文を受けるのが主な業態のようです。自社のホームページでオンラインショップも設けています。
フェリシモは製造委託先に、発注書面に商品の納期を記載せず、発注時までに、製造委託先に「納品期間」を口頭で伝えるなどしたうえ、自社の顧客からの注文に応じて、自社が必要とする都度、製造委託先に納品を指示して、その納品を受けていました。
このスキームは、自社がカタログ販売の販売見込み数を発注量として製造委託先に伝えておいて、商品を製造させ、自社の顧客から注文があれば、製造委託先から納品させますが、自社の販売見込みが外れて、自社の顧客から注文がなければ、製造委託先から納品を受けないでおくことを目論んだものといえるでしょう。
実際のところフェリシモは、「納品期間」の末日が経過しているにもかかわらず、納品の一部を受領していなかったとされています。例えば、今年2月28日までに「納品期間」の末日が到来した商品についても、3月1日現在で委託先88社に対して総額8600万円の代金相当額の商品を受領していなかったということになります。

フェリシモからの言い分とすれば、自社の顧客からの受注状況に対応してするのが具体的な発注(売買契約の申込)であり、その前段階のものは単なる販売予測であったということも考えられます。しかし、委託先からみれば、その数量を作っておく責任があった、逆にいうと作っておかなければ債務不履行として損害賠償を請求される関係にあったはずですから、その発注書面(具体的にどのようなものだったかは分かりません)の段階で売買契約の申込があって、売買契約は成立していたと考えられるでしょう。
なお、販売数量、販売予測を伝える段階で、書面のやりとりがないというケースも考えられるところです。書面のあるなしは、契約の成立不成立を大きく左右する要因ではありますが、「効果」の面から考えて、つまりその販売数量を作っていなかったら、発注者側からどのような責任追及を受けることが予想されるかという点から考えれば、売買契約が成立しているというケースも考えられるところです。

これが製造委託ではなく、単なる売買、つまり受注者側が独自に企画した商品であった場合と比較すると、製造委託先(下請事業者)の苛酷さが分かります。
つまり受注者側が独自に企画した商品であれば、これをどこにでも転売することはできます。しかし、製造委託で作った商品は、発注者側の企画によるものという建前ですから、これを発注者の許可なく転売することはできないはずです。つまり、フェリシモの事例でいえば、フェリシモの販売予測が外れることによる在庫のリスクを、製造委託先がそのまま負わされることになってしまいます。公取委も「自社の在庫管理の合理化を図るため」だったと認定しています。
このようなことに取引上の合理性はなく、これを強いられるのは優越的地位の濫用といってよいでしょう。

フェリシモは公正取引委員会からの勧告を受け、商品の納期、数量を設定し、納期に受領する形でのシステム改修の検討を開始したこと、稼働時期は確定していないが9月稼働を想定して調整を進めていると公表しています。果たしてシステム改修の問題なのかという気もしますが、公取委の指導下にあることからも勧告に従った対応が期待されます。

近時でいえば、もう1件、平成24年3月2日、陶磁器等の卸売、小売等の株式会社たち吉(京都市)もやはり受領拒否で公取委から勧告を受けています。
たち吉もまた和食器のカタログ販売を行っています。そのカタログ販売だけをみると、商品を展示して客に来させる店舗を持たないことから、在庫を自社が抱えておくリスクがありうるという認識が希薄なのではないかと思います。カタログを見た顧客から注文があった分だけ発注して仕入れたい、実際に顧客から注文がなかった分は自社で持つべき在庫ではないという意識が働きやすいのではないかと想像します。しかし、自社の企画で下請事業者に商品を作らせておいて、顧客に売れなかったから、納品を受けない(仕入れなかったことにしてくれ)というのが不合理であることは明らかでしょう。
同様、類似の取引関係にある事業者は、発注側、受注側も気を付ける必要がありそうです。

なお、下請法に着目して検討してきましたが、同じ優越的地位の濫用に関する規制には、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」もあります。このガイドラインが禁止しているのは、「納入業者に対してあらかじめ特別の規格、意匠、型式等を指示して特定の商品を納入させることを契約した」場合の受領拒否(特別注文品の受領拒否)です。下請法と重なるケースも多いと考えられます。大規模小売業者とは、売上高が100億円以上か、店舗面積が3000㎡以上(東京都23区、政令指定都市の場合)または1500㎡以上(それ以外の場合)の一般消費者向け日常使用される商品の小売業者をいいます。
このガイドラインへの目配せも必要でしょう。このガイドラインに該当し、優越的地位の濫用となれば課徴金の対象となります。もちろん、このガイドラインに該当しなくても、具体的な関係如何では優越的地位の濫用が認定されるケースもありえます。