下請代金を不当に減額するとどうなるのか

<ポイント>
◆下請事業者に帰責事由がないのに下請代金を減額することは禁じられている
◆禁止に違反した親事業者は公正取引委員会から減額分の支払等の勧告を受ける
◆違反、勧告の内容は実名で公正取引委員会のHPで公表される

下請法は、親事業者が下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金を減額することを禁止しています(下請法第4条1項3号)。
そして、公正取引委員会は、このルールに違反した親事業者に対して、速やかにその減じた額を支払うこと及びその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする、とされています(下請法第7条2項)。

抽象的なルールは以上のとおりとして、具体的にはどのような運用がなされているのでしょうか。
公正取引委員会のホームページにおいて下請法違反事件の内容が公表されているため、近時の一例を紹介します。
なお、以下では実名を伏せましたが、実際には実名で公表されます。

(事案の概要)
A社は、令和3年9月から令和4年10月までの間、次のアからウまでの額を下請代金の額から差し引き、下請代金を減額していた。その総額は1323万6486円であり、減額された下請事業者87名であった。
ア 「歩引」の額
(現金で下請代金を支払う際に、下請代金の額に一定率を乗じて得た額を「歩引」と称して差し引いて支払っていた。)
イ 「でんさい手数料」の額
(電子記録債権で下請代金を支払う際に、金融機関に支払う電子記録債権の発生記録請求に係る手数料に相当する額を「でんさい手数料」と称して差し引いて支払っていた。)
ウ 金融機関の口座に振り込む方法により下請代金を支払う際に、A社が実際に金融機関に支払う振込手数料を超える額

A社は、令和5年2月17日までに、下請事業者に対し、減額分を支払った。

(勧告の概要)
1 取締役会の決議により次の事項を確認すること。
ア 上記の減額行為が下請法第4条第1項第3号の規定に違反すること。
イ 今後、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じないこと。
2 今後、下請法第4条第1項第3号の規定に違反する行為を行うことがないよう、自社の発注担当者に対する下請法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること。
3 自社の役員及び従業員に次の事項を周知徹底すること。
ア 減額した金額を下請事業者に支払ったこと。
イ 1及び2に基づいて採った措置の内容
4 取引先下請事業者に次の事項を通知すること。
ア 減額した金額を下請事業者に支払ったこと。
イ 1~3に基づいて採った措置の内容
5 1~4について採った措置について速やかに公正取引委員会に報告すること。

典型的な下請代金の不当減額の事例といえます。
親事業者が支払ったのは令和3年9月から令和4年10月までの約1年間に減額した下請代金です。この事例に限らず、1年程度の減額分を支払っている例が多いです(より長期の減額分を支払っている例もあります。)。もっとも、減額の内容からしてその約1年間だけ減額がなされていたとは考えにくく、公正取引委員会がある程度の期間で手打ちにしているのかもしれません。
なお、この事例では、勧告によって減額分の代金を下請事業者に支払うのではなく、勧告前に支払っていますが、私が調べた限りではこのような例がほとんどです。
勧告が出る前に公正取引委員会の調査がなされますが、この段階で親事業者が自主的に支払っているのだと思われます。