<ポイント>
◆ログイン型のSNSにおいては発信者情報開示が十分に機能していなかった
◆法改正によりログイン時情報の開示が認められることとなった
インターネットにおける誹謗中傷、名誉棄損は近年大きな問題となっており、発信者情報開示について耳にする機会も増えたように思います。本稿では、令和3年プロバイダ責任制限法改正によって発信者情報開示における開示対象が拡大されたことを解説しようと思います。なお、本改正は、令和4年10月1日に施行されます。
近年のSNSでは、アカウントを作成したうえで、自らのアカウントにログインした状態で様々な投稿を行うことができるもの(ログイン型)が主流です。TwitterやFacebook、Instagram等のSNSは全てこのログイン型に該当します。ログイン型の場合、ログイン→投稿→ログアウト→ログイン…という形で、その都度通信が行われることになりますが、ログイン型を提供するコンテンツプロバイダの中には、ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ(ログイン時情報)は保有しているものの、投稿時のIPアドレス等は保存していないものがあります。
これの何が問題かというと、発信者情報開示において開示対象となるのは権利侵害を発生させた通信に限定されているところ、誹謗中傷や名誉棄損を含む投稿時の通信がこれに該当することは明白ですが、情報が保存されていない以上、開示請求をしても意味がありません。他方、ログイン時の通信は、形式的に考えると、権利侵害を発生させた通信には該当しません(権利侵害を発生させたのは投稿時の通信であって、ログイン時の通信ではない)。裁判実務においては、一定の解釈によりログイン時情報の開示を認める例もありましたが、開示を認めない例もあり、裁判例は分かれているといえる状況でした。
本改正により、ログイン時の通信は「侵害関連通信」とされ、この侵害関連通信に係る発信者情報を「特定発信者情報」とされ、発信者情報開示命令の対象となりました。要するに投稿時の通信とログイン時の通信を区別する定義を設けたうえで、ログイン時情報の開示を認めることになったということです。ただし、この特定発信者情報の開示については,権利侵害を生じさせた投稿に係る発信者情報の開示に比べて,要件が加重されています。