リストラと社員の処遇
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現在多くの企業は長引く不況を克服し、成長を持続して収益力を高めるためにリストラ(事業再構築)を行っています。
しかし、社員に対する処遇の変更、とくに社員に不利益を与える内容の変更は、会社側の一方的意思で行うことはできません。
法律を無視して強引に行うと、労働基準監督署に申告されて指導を受けたり、その社員や労働組合との間で紛争に発展したり、ときには裁判問題にもなる危険性があります。
そのような事態を避けるため、会社側としては、できることとできないことをわきまえておく必要があります。

【賃金カット】
業績不振を理由に一方的に賃金カットをすることはできません。
労働条件の不利益変更は原則的に禁止されています。
賃金カットをするには、社員が同意して就業規則の賃金規定を改訂するか、労働協約を改訂する必要があります。

【ボーナスの現物支給】
ボーナスを現物支給にすることはできません。
労働基準法によって、賃金については「現金払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」「毎月1回以上一定期日払いの原則」があります。
自社製品等を給料の代わりとすることはこの「現金払いの原則」に反します。

【年俸制への切り替え】
月給制から年俸制に一方的に切り替えることはできません。
これを行うには、就業規則の賃金規定を変更するか、労働協約の改訂、または個々の社員との間の合意が必要です。

【配置転換】
一方的に配置転換を命じることは、できる場合とできない場合があります。
配置転換を行うことが入社時の条件または暗黙の合意事項になっていた場合はできます。拒否すれば、業務命令違反で解雇することもできます。
しかし、職種を特定したり、勤務地域を限定して採用した場合は、それ以外の職種や勤務地につかせることは本人の同意なしにはできません。
また、次のような場合の配置転換の命令は無効となります。
(1)社員の国籍、思想、信条、性別、または組合活動が理由となっている場合
(2)業務上の必要がない(かつ社員も同意しない)場合
(3)いやがらせによる退職を意図するなど、不当な動機、目的をもって行う場合
(4)その社員に著しい不利益が生じ、会社側の必要性と考量して不当といえる場合

【子会社への出向】
子会社への出向を命じることは、できる場合とできない場合があります。
配置転換と同様に考えればよく、会社が一方的にできる場合もあります。
ただし、いわゆる「転籍出向」は「退職」ですから、本人の同意なしには命令できません。

【希望退職】
希望退職者を募集し、応募者を退職させることはできます。
これは本人の自由意思による退職ですから当然許されることです。

【退職勧奨】
退職勧奨を行うことは、不当な方法でない限りできます。
話合い、要請、説得などによる退職勧奨はもちろん違法ではなく、許されます。しかし、陰湿ないやがらせやいじめ、脅迫まがいの言葉などでしつこく退職勧奨することは違法(不法行為)となるおそれがあります。不法行為と認定されると、損害賠償(慰謝料)を請求されることがあります。

【懲戒解雇】
社員に企業秩序を害する行為があり、それが就業規則の懲戒解雇の項目に該当する場合は、懲戒解雇(その他の懲戒処分)をすることができます。
懲戒解雇の場合は、解雇予告を行わず即時に解雇することができ(ただし、労働基準監督署の事前認定が必要)、また、退職金規程等の定めるところに従い、退職金の全額か一部が支払われないのが通常です。

【普通解雇】
職務遂行能力に著しく欠けているとか、病気で職場復帰の見通しがないといった事情があり、それが就業規則等の解雇事由に該当する場合は、解雇(普通解雇)をすることができます。
この場合、30日前に予告するか30日分の予告手当を支払う必要があります。
なお、30日前に予告するか30日分の予告手当を支払いさえすれば、解雇理由が相当でなくても、一方的に解雇できると考えている経営者がときどきいますが、それは誤解です。

【整理解雇】
会社の業績不振や業務の一部廃止などの場合、次のような条件が満たされているときに限り解雇(整理解雇)をすることができます。
(1)整理解雇をする必要性が明らかに認められること。
(2)整理を回避するための努力を十分に行ったこと(例えば、まず賃金カットを行う。パートやアルバイトを先に切る。希望退職を募る、など。)
(3)解雇対象者の選定が合理的であること。
(4)対象社員や労働組合に対し十分な説明と協議を行ったこと。