宅配便大手のヤマト運輸は平成16年9月28日、日本郵政公社に対し、郵便小包ゆうパック事業が独占禁止法の「不公正な取引方法」の禁止に違反するとして、東京地方裁判所に提訴しました。
ヤマトはこれまで、コンビニエンスストア・ローソンとの間で宅急便の取扱店契約を結んでいましたが、平成16年8月17日、ローソンがゆうパックの取扱いをすることで公社と合意したことに伴い、ローソンから契約を中途解約されるに至りました。ローソンはヤマトに対し、宅急便とゆうパックの両方の取扱ができるよう独占契約の変更を求めていましたが、ヤマトが、公社との競争条件の違いなどを理由にこれを拒絶したためです。
そこで、ヤマトが公社を相手取り、ローソンを通じてゆうパックサービスを提供することの差止め、またローソンとの取扱委託契約の撤回を求めたのがこの裁判です。ヤマトは他にも、公社がコンビニにゆうパックの取り扱いをするように勧誘することや、国土交通省に届け出た民間宅配便業者規定の料金未満でゆうパックサービスを提供することの差止めも求めています。
そもそも独占禁止法は公正で自由な競争を促進し、もって国民経済の民主的で健全な発達を促進することなどを目的として制定された法律です。そして、企業が一定の「不公正な取引方法」を用いれば、公正な競争が害されるおそれがあるとして、これを禁止しています。
ここにいう「不公正な取引方法」の具体的な類型は独占禁止法に基づいて公正取引委員会が指定しており、この訴訟でヤマトが問題としているのは次の2点です。
1点目は「不当な利益による顧客誘引」(一般指定9項)に該当するということです。これは、例えば不当に高額な景品で客を釣るのは公正な競争ではないとして禁止されるものです。
ヤマトの主張では、ローソンが郵便局の一部を借りてコンビニ「ポスタルローソン」を営業していることに関し、公社は市場実勢よりも著しく低い賃料でローソンに貸すという「不当な利益」を与え、ローソンがゆうパックの取扱いをするよう勧誘したとされています。公社がコンビニ店頭の郵便ポストからの手紙を回収するのに、本来ローソンから受け取るべき料金を免除したことも「不当な利益」にあたるとされています。
したがって、公社がローソンとの間でゆうパックの取扱契約を結ぶことが「不当な利益による顧客誘引」によるものであり、「不公正な取引方法」に当たるとして、取扱いの差止め、さらには他のコンビニとの交渉の差止めを求めています。
2点目は「不当廉売」(一般指定6項)に該当するということです。正当な理由がないのに、商品やサービスを不当に低い価格(最たるものが原価割れ)で提供して、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為を指します。ヤマトは、公社が平成16年10月1日から始めた新割引制度(持ち込み割引、複数口割引など。)が、このような「不当廉売」にあたるとして、公社が民間宅配便業者の料金未満でゆうパックサービスを提供することを止めるよう求めています。
問題はゆうパック事業にヤマトのいう「不当」性が認められるか、換言すれば、「公正な競争が害されるおそれ」があるかという点であり、この点についての司法判断が求められています。
ところで、この裁判はヤマトが公社を相手取って差止めを求めた民事訴訟です。従来、独占禁止法違反行為は公正取引委員会が勧告し、または排除措置命令を出すことで排斥されるしかありませんでした。
しかし、公正取引委員会が審査できる件数には限りがあるため、平成12年の独占禁止法改正で、不公正な取引方法によって著しい損害を被った又はそのおそれのある被害者は違反者を直接相手取って差止訴訟を起こすことができるようになりました。
ヤマトはこの制度を選択したのです。その背景には、公正取引委員会よりも比較的早期の判断が期待できることや、かつて地域振興券の配送委託に関し、振興券が郵政省(当時)が配送を独占する「信書」に当たるかどうかを巡って、公正取引委員会から不利な判断を受けたことがあると報道されています。
ヤマト運輸、郵政公社を独禁法違反で提訴
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