今年6月、経済産業省が外国語会話教室を経営する株式会社ノヴァに対し特定商取引法(以下、「特商法」)違反を理由とする業務停止命令を行うという出来事がありました。処分理由(特商法違反とされた点)は複数ありますが、そのうちの一つに、受講者からの解約申入れの際の清算金の一部不払いの問題があります。この点に関連して、行政処分に先立つ4月3日付けで最高裁判決による判断がなされています。最高裁判決も、ノヴァにおける解約時の清算金の扱いが特商法違反であると判断したものです。
ノヴァでは、受講生として加入する際にレッスンポイントを購入し、このポイントを用いてレッスンを受けるというシステムを採用しており、加入時にまとめて多くのポイントを購入するほどポイント単価が安くなるものとされています(いわば割引料金)。最高裁判決の記載によると、例えば、300ポイント購入ならば単価1750円、600ポイント購入ならば単価1200円、とされています。
途中解約時の処理ですが、加入時に受講生がまとめて支払ったポイント購入代金(前払いレッスン料)のうち、
(1)レッスンを受けて消費したポイント数に相当する金額(受講済みレッスンの料金)と、
(2)解約手数料
の合計額を差し引いた残りの金額が清算金として受講生に返されることとなります(この仕組み自体には争いありません)。
上記の最高裁の事案では、(1)の受講済みレッスン料金をどのように設定するか、という点などが争われました。受講済みレッスン料金を高く設定すると前払いレッスン料から差し引かれる金額が多くなります。その結果、清算金は安くなり、ノヴァに有利(受講生には不利)です。
この点につき、ノヴァは、受講契約の定めに従って、残っているポイント数を単価算出基準にあてはめるべきだとし、残り300ポイントなので単価1750円であると主張しました。
これに対し受講生側は、ノヴァが主張する受講契約の定めは特商法に違反し無効であって、加入時(ポイント購入時)のポイント単価をそのまま解約時の清算金計算上もあてはめるべきだとし、600ポイントを購入したのだから単価1200円であると主張しました。
最高裁は、この問題点について受講生側の主張と同趣旨の判断を下しました。ノヴァが主張する清算金計算に関する受講契約の定めは、特商法49条2項(下記※)に違反し無効であるとしたものですが、その理由のポイントは、
(ア)購入時の単価をそのままあてはめて受講済みレッスン料金を計算するのが自然である、
(イ)ノヴァの主張に従うと、途中解約時には常に加入時よりも高額で計算されるポイント代金が前払いレッスン料から差引かれることとなり、実質上は違約金を定めて解約しにくくしているのと同じである、
という点です。
この最高裁判決の後も、他の裁判所(下級審裁判所)が同趣旨の判断を行うケースも見られ、経済産業省も特商法49条2項に関する通達を最高裁判決に沿うものに変更しています。
※特商法49条2項:語学学校のレッスン契約など、政令で指定される「特定継続的役務提供契約」に関し、契約者が解約申入れをした場合に、業者が契約者から徴収できる金額の上限を定める規定です。その趣旨は、高額の支払いをおそれて契約者が解約しにくくなるような事態を防止することにあります。
上記の判決については、消費者保護の観点から好意的に評価する見解があるほかに、「大量一括購入の場合にも料金割引きをしにくくなる。沢山買うと安くなるという当然のシステムが利用しにくくなる。」という批判的な見解も見られます。
例えば、あるサービスを1か月受けるには料金1万2000円かかるが、6か月分のサービスをまとめて申し込んだ場合には、1月分の料金を割引いて6万円でよい(結局、1か月あたり料金1万円)という場合を想定します。
このケースで、解約清算時にも割引料金がそのまま適用されるならば、本音では2カ月しかサービスを利用する気がないのに、ひとまず6万円を支払って6か月分のサービスを申し込んでおき、2か月経過したところで解約すると4万円が返ってくるので結局2万円の負担で済んでしまう、これは不当なので、解約清算時には割引料金の適用をなくして通常料金での清算を行い、契約者に2万4000円の負担を求めることを認めるべきだというのが、上記の最高裁判決への批判的見解です。
しかし、上記の最高裁判決は、大量購入による割引料金一般にそのままあてはまるものではないとの指摘もなされています。
上記の最高裁判決が、清算時にも割引料金が適用されるべきとした根拠は、ノヴァの契約書上のルールが特商法49条2項に違反するから、という点にあります。特商法49条2項は、同法関連の政令が指定する「特定継続的役務提供契約」のみに適用される条文です。現在、「特定継続的役務提供契約」は語学レッスン契約など6業種のみが指定されていますが、いずれも、契約期間が長期にわたることが多く、サービスの効果に不確実さを伴う、といった性質をもっています。
最高裁は、こうした「特定継続的役務提供契約」の性質に言及しつつ、あくまでも「特定継続的役務提供契約」に関する特商法49条2項の解釈適用として上記の判断を下したものです。最高裁判決は、割引料金をインセンティヴに取引促進を図ること一般を否定する趣旨ではないように思われます。
(なお、今回の記事を執筆するに際し、NBL858号12頁以下の各コメントを参考とさせて頂きました。)