平成17年6月27日、東京地裁において、セクシャルハラスメントを理由として大学側が教授に対して行った処分の違法性についての判決がありました。
事案は、ある大学院教授が、ゼミの学生に対してセクシャルハラスメントをしたとして、懲戒処分を受けたことにつき、大学側に対し、セクシャルハラスメントの事実はないとして、懲戒処分の取消及び国家賠償を請求したものです。
主な争点は、セクシャルハラスメントの事実があったかどうか、という点と、大学側が、大学院教授に対し、全ての教育活動の停止及び大学運営への参加停止措置を3年間続けた点が違法となるか、という点の2点です。
東京地裁は、セクシャルハラスメントの事実については、被害者の供述が具体的かつ詳細であることや、事件直後に被害者が知人に事件について相談をしていたこと、セクシャルハラスメントの事実が発覚した経緯についても当時の被害者と教授の置かれていた立場からして不自然ではないこと、セクシャルハラスメント行為の不存在を主張する教授の供述には不自然な点が多く信用性に乏しいこと、などからセクシャルハラスメント行為があったものと認定しました。
したがって、3か月間の停職処分という懲戒処分については、相当なものであるとして、教授の取消請求を認めませんでした。
一方、教授から国への損害賠償請求については、1000万円の請求に対し、100万円の限度で認めました。
その理由は、3か月間の停職処分の執行が終了した後であっても、受講生を含む学生全体の動揺や不安を除去し、学生の適正な教育環境を保全するため、一定期間大学運営への参加停止措置をとることは大学側の裁量の範囲内ということはできるが、その一方で、教授が教育課程に復帰するための準備期間としては、処分が終了し、かつ人事院の審理が終了し約1年を経過した後の新学期開始前(事件発生後約4年弱の時点)で十分であるということです。
教授のセクシャルハラスメント行為は一度だけであり、その被害者以外の学生に対しセクシャルハラスメント行為をしていたという事実は認められず、このような事情を考えると、教授が大学側に停止措置の解除を求めた後6か月もあれば、大学側で研修を受けさせること等の措置を取ることにより、セクシャルハラスメント行為を働く危険性は除去された蓋然性が高いといえるのに、大学側が、漫然と措置を続けたことは裁量権の逸脱と判断したのです。
この件に限らず、大学での教授等の学生等へのセクシャルハラスメント事件は、多発しており、社会的にも重大な問題となっています。
また、被害者との関係では、事件を放置し、再発防止策を講じないこと自体が、損害賠償の原因にもなりかねません。
大学側も、セクハラ相談員を設置したり、事件を起こした教授等に対し厳しい処分を行ったりすることにより、事態の改善を図ろうとしているようです。
ただし、事件を起こした者の処分は、人事権の行使である以上、裁量の範囲を超えた厳しすぎるものであってはならず、事案の概要を的確に把握したうえで、事案の重大性とバランスのとれた処分をすることが求められることになります。
この判決は、雇用者側に、正確な事実認定やバランスのとれた処分を行う司法的な役割があることを認めたものといえます。
経営者側は、この点に留意する必要があるといえるでしょう。