スカイプレミアム事件_消滅時効の問題 
【関連カテゴリー】

<ポイント>
◆法律構成による消滅時効の違い
◆契約責任と消滅時効
◆不法行為責任と消滅時効(主に起算点)
◆時効の完成猶予-内容証明郵便の発送

1 証券取引等監視委員会の公表の意味
スカイプレミアム事件について、証券取引等監視委員会がHP上で「SKY PREMIUM INTERNATIONAL PTE. LTD.(スカイプレミアムインターナショナル社)及びその役員1名による金融商品取引法違反行為に係る裁判所の禁止及び停止命令の発令について」を公表したのが令和3年12月8日でした。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が「3年」(民法724条)とされていることから、令和6年12月8日の経過は、法律的には一つの重要なポイントになってくる可能性があります。

2 消滅時効といっても責任を追及するための法律構成によってその期間が変わってきます。
他の構成もありますが、主に考えられるのは契約違反をもとにする債務不履行の構成と不法行為の構成が考えられます。
スカイプレミアム事件について具体的に考えてみます。

3 債務不履行責任を追及する場合
(1)債務不履行に基づく損害賠償請求権は、権利を行使することができる時から10年間(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の場合は20年間)行使しないときは時効により消滅するが、それだけでなく、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときにも、時効により消滅するとされます(民法166条)。以上は2020(令和2)年4月1日から施行された改正民法の規定です。
被害者によっては、2020(令和2)年4月1日よりも前に取引を開始された方もいると思います。この場合は、旧民法167条1項で10年(商事消滅時効とされれば5年、旧商法522条)が消滅時効となります。
以上のような債務不履行の構成であればまだ消滅時効を気にしなくてもよさそうです。
(2)しかし、債務不履行構成では契約関係があることが必要になってきます。
スカイプレミアム事件で被害者の方が契約関係にあると考えられるのは以下の外国法人です。
① 会員契約を締結したSKY PREMIUM INTERNATIONAL PTE. LTD.(シンガポール法人。以下「スカイ社」)。
② 証券口座の開設を申し込んだGQ CAPITAL INC.(ベリーズ国法人。以下「GQ社」。)
③ 預託した投資資金を用いて取引を行う権限を与える旨の契約を手結したThink Smart Trading(以下「Think社」)。
日本の裁判所で判決をもらってもそれを国外で執行できるかは別途検討が必要ですし、この点をクリアしても各社が資産をもっているような実態があるのか判然としません。
勧誘を受けた直接のエージェントについては、媒介契約や取次契約の成立というような構成がとれれば、なお契約責任を追及できる可能性はあります。が、具体的な事実関係に基づいて主張を組み立てなければならず弁護士にとっても悩ましい作業です。

4 不法行為責任を追及する場合
(1)不法行為に基づく損害賠償請求権は契約関係が無くても主張できます。その分、主張・立証のハードルが上がるのですが、訴訟ではこの構成を採用する弁護士が多いのではないかと推測しています。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、民法の改正前後にかかわらず①被害者(またはその法定代理人)が損害及び加害者を知ったこと、②前記①より3年が経過したこと、及び③エージェントによる消滅時効の援用(主張)が認められると成立します。
ここで問題は、いつから3年をカウントし始めるかです。
「損害」と「加害者」を知ったとき、の意味が問題になります。
(2)「損害を知った時」は、「損害の程度・数額などを知る必要はないが、違法行為による損害の発生の事実を知ることを要する、とされています。
スカイプレミアムの幹部やエージェントからは証券取引等監視委員会の令和3年12月8日付け公表がこの「違法行為による損害の発生の事実」に該当すると主張される可能性はあります。
私としては、詐欺ではない金商法違反の公表だけでは消滅時効の進行が開始するとは考えませんが、「FX取引運用されていることの確認はできませんでした」とも公表されていますので最終判断権者である裁判官が私と同じ考えをするかどうかは分かりません。
リスクと考えられる以上は極力排除するのが望ましいと考えています。
(3)「加害者を知った時」は損害賠償を請求するべき相手方を知るという意味とされています。より具体的には加害者の氏名及び住所を知った時とも言えます。
自分を勧誘した直接のエージェントの住所を知っている被害者も多いので、エージェントを訴えたい方にとっては令和6年12月8日は一つのポイントになってきます。
他方で、幹部、スーパーバイザーや代理店などの上層部の住所は分からない被害者も多いと思いますので、今の時点では幹部等に対する請求を考えておられる方は神経質になる必要はなさそうです。

5 対応策
(1)では消滅時効の成立を防ぐにはどのような方法があるでしょうか。
真っ先に考えられるのは訴訟提起です。ただし、弁護士費用との関係で悩まれる被害者が多いのではないかと想像します。
(2)次善の策としては、対象となるエージェントに内容証明郵便を発送しておく方法もあります。エージェントが受け取らない場合などの対策も必要ですし、弁護士費用もおそらく3万円~6万円程度で済むと思われますので信頼できる弁護士に依頼するのが望ましいです。
ただし、この方法(催告による時効の完成猶予。民法150条)でも6カ月間の猶予しか設けられません。
(3)本件に関する訴状は、弁護士も依頼を受けてすぐに作成できるわけではありません。被告とする者の取捨選択、法律構成(注意義務の内容)、被告とするものの住所地等の調査、東京地裁決定の謄写など多くの調査が必要になります。
弁護士に依頼するにしてもこうした調査の時間を考慮に入れていただく必要がありますのでご留意ください。