<ポイント>
◆アディダスジャパンが小売価格を拘束したことは違法
◆再販売価格の拘束は価格競争を消滅、減殺する
スポーツ用品大手のアディダスジャパン株式会社は、人気の運動靴「イージートーン」について、2010年3月から昨年4月までの間、自らあるいは取引先の卸売業者を介して、小売業者に対し、自社が設定した小売価格を守って消費者に販売させるなどしていました。
この件で公正取引委員会は昨年4月、アディダスジャパンに立ち入り検査をし、その結果を踏まえ今年3月2日、今後同様の行為を行わないことを取締役会で決議し、現にこれを行わないことなどを求める排除措置命令をアディダスジャパンに出しました。
同社は「命令を厳粛に受け止めている。」とコメントしているようです。
公取委によって独占禁止法違反を指摘されたアディダスジャパンの行為は「再販売価格の拘束」に該当します。独占禁止法は次のとおり定め、「不公正な取引方法」の一類型としてこれを禁止しています。
「自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること(以下略)
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること(以下略)」
アディダスジャパンが自ら小売業者に対し、小売価格を定めて維持させていたのがイに該当します。
同社が同じく小売価格を定めながらも、それを自ら小売業者に守らせるのではなく、取引先(相手方)である卸売業者をして、その価格を小売業者が守ることを条件に小売業者と取引させていたのがロに該当します。つまりは直接に小売業者に小売価格を守らせるのがイであり、卸売業者を通じて小売業者に小売価格を守らせるのがロということです。
この条文にいう「販売価格を定めて」という中には、実際アディダスジャパンも行っていたように、値引き限度額(本件では10%まで)を定め、これを守らせるということも含まれています。
これら再販売価格の拘束は原則として違法とされ、「正当な理由」があって適法となることはほとんどありません。
再販売価格を許すとなると、例えばAというメーカーの商品を扱う卸売業者間の価格競争がなくなってしまいます。
メーカーAが同一の価格で販売する先の卸売業者がa1、a2、a3とあったとして、それぞれの企業努力によって他社よりもより安く小売業者に提供して販売を拡大し売上を伸ばそうと思えば、当然そこには価格競争があり、小売業者は値段の安いところから仕入れることになり、その恩恵は結果として消費者が受けることができます。
ところがメーカーA社がa1、a2、a3との間で、それぞれ小売業者への卸売価格を同一の金額にするよう求め、a1、a2、a3がこれに応諾したとなると(まさに再販売価格の拘束)、a1、a2、a3からの卸売価格は同一になってしまい、三社間での意思の連絡はないにせよ、結果的に価格カルテルを結んだのと同じ効果が生じてしまいます。いわゆる「ブランド内競争」が全くなくなった状態です。
またA社が再販売価格の拘束を行い、これが継続して実効性を保っているということは、安売りをする卸売業者が出てこないということを意味します。安売りをする卸売業者が出てこないというのは、小売業者からみて、A社商品と同種のB社商品への乗り換えることも現実に起こっていないということになります。つまりB社を源流とする同種商品の卸売価格も、小売業者がそこに乗り換える程に安くはないということです。これをB社サイドから見れば、A社ルートでの卸売価格が下がってないということは、(再販売価格の拘束が行われていることは知らずとも)B社にも安心感を与え、より安く卸売業者に提供しようと意欲をそいでしまいます。その結果、再販売価格の拘束は、ブランド間においても競争を減殺させる効果があるといえます。ここでもA社とB社との間に意思の連絡はないにせよ、価格カルテルに近い状態に作為的に向かっていくことになります。
再販売価格の拘束が原則として違法とされるのは、このように垂直的な取引関係にある相手方を通じつつ、価格そのものを拘束するため、価格競争に対する悪影響が直接的なことにあると考えられます。
価格の自由な決定権は企業の最も重要な権利であるから、優越的な力を背景にその権利を奪うことに違法性の根拠があるという考え方もあります。
次回この題材を元に、再販売価格の「拘束」の意味やペナルティの内容(課徴金等)について触れてみることにします。