そのビジネスは非弁行為ではないですか

<ポイント>
◆法律事務を扱う業務に事件性がなくとも非弁行為となりうる
◆DXをつかった新たなビジネスにおいて非弁行為の検討が必要な場合も

先日、契約書のチェックの依頼を受けましたが、その契約書は依頼者にとって有利・不利以前に弁護士法違反の非弁行為を行うものではないか疑問があるという事例がありました。
その事例は、A社がある業務をB社に依頼し、B社は多数の候補業者の中から最も安い実施業者を選定して契約しますが、A社はB社に依頼するにあたり包括的委任状をB社に渡して、同社がA社の代理人として当該業務を実施する会社(C社とします)との間で契約を締結するというものです。
当該業務を実施する会社は、時期や業務内容によって変更され(C社からD社、E社・・・というようにかわります)、B社は、その都度、多数の中からA社にとって最も有利なサービスを提供する会社を選択して契約するというものです。
A社はB社に対価として報酬を支払いますが、A社は当該業務を実施する会社(C社等)と直接、契約しているのであり、A社がB社に委託した業務をC社が下請けをしているということではありません。このような形態を選んだ理由は不明ですが、B社にとってはリスクヘッジの意味があると思います。
依頼者にとっては従来よりも何割か安く当該業務を行ってもらえるということで積極的に考えていましたが、非弁行為に該当する可能性があるということで、結局断念しました。

弁護士法72条は非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止を定めており、これに違反すると2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金に処されることとなっています。
同条は大まかに言うと、弁護士でない者は報酬を得る目的で、訴訟事件等及び一般の法律事件に関して、代理等の法律事務を取扱うことを、業として行えないという規定です。
上記事例において、同条の重要なキーワードは「法律事件」であり(「一般の」にはあまり意味がありません)、これに該当するかどうかで非弁行為となるかどうかが決まります。
「法律事件」とは何かについては議論があります。最も大きな争点は「事件性」が必要かどうかです。
これを肯定して、法律事件に該当するためには、事件というにふさわしい程度に争いが成熟したものであることを要するという考えをもつ専門家はいます。
しかし、判例は、「事件性」を不要としており、新たな権利関係が発生する案件も「法律事件」に含まれるとしています。
したがって、上記事例においては、B社が代理人としてA社のために契約を締結することは、法律事件(契約締結)に関して、法律事務を取扱う(代理)ことになり、報酬を得る目的等の他の要件もみたしていることから非弁行為となると考えられます。

以前より、不動産業者が家主に代わって行う家賃の請求や交渉等が非弁行為に該当するのではないかという問題はありました。また、今でもそのような相談は時々、受けることがあります。
上記事例は、新たなビジネスとして、DXをつかって、顧客により安価で良質なサービスを提供することを考えているかもしれません。
いわばコンサルタントとして顧客により有利な契約の締結を勧めるもので、対象となる業務としては、たとえば廃棄物の収集業務、建築業務、ウェブ広告業務などが考えうるし、他にもありうるのではないかと思います。
しかし、アイディアの斬新性は別として、非弁行為に該当する可能性についての検討を怠ってはなりません。
また、昨今の事業再編の中でホールディングカンパニーを親会社として、その下に事業会社がぶら下がるという構造を取る企業集団はめずらしくありません。
その場合、親会社の法務部門が子会社の契約書のチェックをするとか、場合によれば法務部門が独立した会社としてグループ全体の法務のチェックを担当させるということもありえます。
会社が、自らの法務部門に契約書のチェックなどを行わせても非弁行為の問題は生じません。自己の法律事務を行っているだけで、他人の法律事務を行っていのではないからです(72条にはこの「他人性」は規定されていませんが、当然のこととされています)。
しかし、親会社や兄弟会社の法務部門による場合には、実際に事件化するかどうかは別として、非弁行為に該当するのではないかという意識は必要です。