いわゆる政策投資目的で保有する株式の開示について

2010年7月7日配信のメールマガジンで「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)の2010年3月31日の改正による役員報酬の開示について述べましたが、今回は同じ改正による株式保有目的等の開示について述べます。
上場会社は事業年度終了後3カ月以内に有価証券報告書(縮めて「有報」といわれます)を金融庁に提出しなければなりません。
今回の改正により、有報提出会社は貸借対照表上の「投資有価証券」にあたる株式のうち保有目的が「純投資」以外の株式について、有報に情報を開示することが必要となりました。
この情報開示が必要かどうかについては、保有目的が「純投資」かそれ以外かが分かれ目です。「純投資」の意味については、金融庁は「専ら株式の価値の変動または株式に係る配当によって利益を受けることをいう」としています(パブリックコメントに対する「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」参照)。「純投資」かどうかの判断は各会社の判断に任されています。
有報提出会社の保有目的が純投資以外の場合には「政策投資目的」といわれることが多いので、この稿では保有目的が純投資以外の株式を「政策投資目的株式」と呼ぶことにします。
政策投資目的株式の典型的な例としては、業務提携や買収防衛などの目的で会社どうしが互いに相手の発行する株式を持ち合う場合(「株式の持ち合い」といいこの株式のことを「持ち合い株式」とか「持ち合い株」とかいいます)です。
なお、政策投資目的株式に関して、有報提出会社が議決権行使を指図する権限を保持したまま信託に拠出した株式などについて特別な定めがありますがここでは立ち入りません。

有報提出会社は政策投資目的株式の合計銘柄数及び有報提出会社の貸借対照表上額の合計額を有報に記載する必要があります。
さらに、当期または前期の貸借対照表上額が有報提出会社の資本金額の1%を超える政策投資目的株式の銘柄、株式数、貸借対照表上額、保有目的を有報に記載しなければなりません。
また、当期の貸借対照表上額の上位30銘柄については資本金額の1%以下であっても同じ記載をしなければなりません。
資本金額の1%を超える銘柄と貸借対照表計上額の上位30銘柄は重複することがありますが、少なくとも政策投資目的株式30銘柄については上記の株式数などの記載が必要ということになります。もちろん、保有している政策投資目的株式が30銘柄以下であれば、保有している政策投資目的株式全てを記載すれば足ります。
ただし、銀行・証券会社以外は、上位30銘柄を記載しなければならないのは、2011年3月期の有報からで、それまでは上位10銘柄を記載すればいいということになっています。

貸借対照表上額が資本金額の1%を超える、もしくは上位30銘柄の政策投資目的株式については、その保有目的を具体的に有報に記載することが必要です。
金融庁は、保有目的の具体的な記載例を示していませんが、実際の記載例としては「事業活動の円滑な推進」程度の抽象的記載や、より具体的な「○○事業における取引関係維持のための投資」、「原材料の調達取引の安定化」という記載などがあります。

なお、政策投資目的株式については有報の「コーポレートガバナンスの状況等」の項に記載されますが、従来から、有報の「財務諸表等」の項には保有する株式についての記載がありました。
有報提出会社は、有報の「財務諸表等」の項に、貸借対照表上額が有報提出会社の資本金額の1%を超える株式の銘柄、株式数、貸借対照表上額を記載しなければなりません。
また、貸借対照表上「投資有価証券」にあたる株式のうち、貸借対照表上額の上位10銘柄については資本金額の1%以下であっても同じ記載をしなければなりません。
この記載については開示府令の改正後も変更ありません。そのため、有報提出会社の保有株式の一部について、その銘柄、株式数、貸借対照表上額が有報の「コーポレートガバナンスの状況等」の項と「財務諸表等」の項で重複して記載される可能性があります(実際には重複して記載されていることが多いようです)。

今回の改正により、保有株式のうち開示が必要な銘柄数が増える上場会社は多いと思います。また、政策投資目的株式の保有目的がわかるようになりました。このように、株主が政策投資目的株式についてより多くの情報を得られるようになったことから、具体的な保有目的や必要性は何か、その株式保有は非効率な資金運用ではないかなどについて、株主総会で質問しやすくなったといえるでしょう。また、経営側もその株式保有の目的、必要性、それによる利益について再検討を迫られるものと思われます。これからの株主総会で、株主が新たに開示されるようになったこれらの情報をどのように利用するのか注目されます。