「黄金株」について(その2)
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昨年12月1日の法律トピックスで紹介しました黄金株について、新聞によると東京証券取引所は12月17日に条件付きで容認する方針を打ち出したということです。この条件のひとつは、株主総会の普通決議(過半数の賛成)で黄金株の無効を決めれば、黄金株を持つ特定株主が拒否権を発動できなくなる「停止条項」を定款に盛り込むことだと報道されています。この条件にはどういう意味があるのでしょうか。

黄金株として今回問題となったのは、定款で、合併や営業譲渡等についてある種類株主総会の決議を必要と定め、その種類株式を発行して友好的株主に保有してもらうことにより、敵対的買収者に対する防衛をはかるものです。今回の会社法の制定で、上場会社でも譲渡制限のある黄金株の発行が可能になり、この点に大きな意義がありました。
これに対して、東証は、このような黄金株の導入は現経営陣の地位の防衛に偏っているきらいがあり、証券市場への信頼性の確保という視点から難色を示していました。
今回の東証の「譲歩」は、このような企業防衛に偏ったものでなければ、黄金株の導入を認める趣旨です。

ところで、黄金株は定款によって株式の内容が定められていますので、定款変更をすれば内容の変更ができることは当然です。ただし、定款変更には、株主総会での特別決議に加えて、黄金株の種類株主総会での特別決議も必要になると解されます。
このため、たとえば黄金株1株を発行している会社においては、その黄金株主が承諾しなければ定款変更はできません。その結果、いくら多数の株式を有していても、黄金株1株を保有する株主が同意しなければ合併や営業譲渡等ができないことになります。
もちろん、黄金株複数株を複数人の株主に発行している場合に、黄金株主の種類株主総会自らの特別決議によって黄金株の効力を失わせることはありえます。しかし、いずれにしても定款変更によって黄金株の内容を変更することは非常に難しいといえます。

そこで東証は、定款変更という非常にハードルの高い手段ではなく、予め株主総会の決議で、黄金株主の種類株主総会の決議を無力化する定款の規定を求めているのです。
会社法では、ある事項について、株主総会決議のほか、種類株主総会決議を必要とする旨定款で定め、また決議を必要とする条件を定款で定めることができるることになっています(108条1項8号、同条2項8号)。
この規定に基づき、今回の東証の方針に従った定款を定めるならば、「合併や営業譲渡等の承認を求める株主総会において、株主総会の過半数の反対がないことを条件に、黄金株の種類株主総会の決議をも必要とすることとする。」という趣旨、つまり、逆に言えば、株主総会の過半数の反対があれば、黄金株の種類株主総会の決議は不要とする、ということになるので、結局、黄金株は機能しないこととなります。
つまり、このような定款の定めがある限り、敵対的買収者は過半数の株式を取得して、合併等について黄金株の種類株主総会決議を要することに反対すれば、(合併等の阻止を目論んで導入したはずの)黄金株は機能しないことになります。
たとえ敵対的買収者の取得株式が過半数に満たなくても、例えば40%の株式を取得したに過ぎない場合にも、そのほか種類株主総会決議を要することへの反対者が11%あれば、反対が併せて51%となるため黄金株は機能しなくなります。議決権の行使をしない株主が21%いれば、株主総会において40%の議決権で反対すれば出席株主の議決権の過半数を超えるため、やはり黄金株は機能しません。
敵対的買収者の株式が40%に過ぎない場合に、黄金株が機能するのは、残りの株式60%のうちの「51%が種類株主総会決議を要することに賛成した場合」か、又は「19%が議決権を行使せず、かつ、41%が種類株主総会決議を要することに賛成した場合」のみです。
ただ、株主総会の過半数が種類株主総会決議を要することに賛成するということは、黄金株による拒否権発動を認める、つまりは合併等に反対というのとほとんど同じでしょうから、黄金株の種類株主総会の決議を問うまでもなく、そもそも、株主総会において3分の2以上の特別決議が必要な合併等の議案は議決されないのではないでしょうか。
そうすると、拒否権を行使するために東証の求める条件がついていれば、もはや「黄金株」の名に値するようなものではないかもしれません。その意味では、東証は「譲歩」したわけではないとも言えます。

今後もこのような厳しい条件を要求する方針を変更しないかどうかを見守りたいと思います。