<ポイント>
◆高齢者雇用安定法の判例の見解が分かれている
◆法の求める手続きを履践しているか確認を
◆労働者代表の選定手続きにも注意
2006年(平成18年)に施行された高年齢者雇用安定法(以下、「高年法」といいます。)第9条は、65歳未満の定年を定めている事業主に対し、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、(1)当該定年の引き上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)当該定年の定めの廃止、のいずれかの措置を講じなければならないとしています。
改正高年法の施行から数年が経過したこともあり、この法律に違反しているとして、争いになっている裁判例が見られるようになってきました。
特に大きな問題となっているのは、この法律の第9条が、労働者に、事業主に対する継続雇用制度の導入請求権ないし雇用継続請求権を付与した規定であるか、という点です。言い方を変えれば、この条文が直接的に私法的効力を認めた規定であるかが争点となっているのです。
つまり、この法律に違反して、9条の定めるいずれの措置も講じなかった場合や、(2)の継続雇用制度を導入したものの必要とされる手続きを満たしていない場合などに、それらのことを理由に定年制度が65歳まで延長されたりするのか、あるいは定年の定めがないという法的な効力が発生したりするのかが問題となっているのです。
この点に関して学者の見解は分かれていましたが、最高裁判所の判例はでておらず、肯定する下級審の判決も見あたらないとされていました。
すなわち、事業主は労働者に対して、この法律によって継続雇用義務を直接負うものではないと解釈されていたのです。
例えば、高年法第9条の私法的効力を否定する判例として、大阪高等裁判所2009年(平成21年)11月27日NTT西日本事件があります。
これは、NTT西日本が、関係会社への転籍を選択した従業員のみを定年後も雇用するとしたことに対して、転籍を選ばなかったため定年により退職したものとして扱われた従業員が定年後の雇用確保義務違反等を主張して、定年後も働いた場合の賃金相当の損害賠償請求をした事案です。
裁判所は、以下の3つの理由から、高年法第9条の私法的効力を否定し、NTT西日本は従業員に対し、継続雇用制度の導入義務ないし継続雇用義務を負っているとまではいえない、としました。
(1)仮に、高年法第9条によって事業主に継続雇用についての制度を作る義務があるとしても、その義務の内容が抽象的で、直ちに私法上の効力を発生させるほどの具体性を備えているとまでは認めがたい。
(2)同法第9条第2項は、一定の場合に継続雇用制度の対象となる高年齢者の基準を定めることを許容し、各事業主がその実情に応じて柔軟な措置を講ずることを許容しているものと解される。
(3)労働基準法は第13条で「労働基準法の基準を下回る労働契約は無効である」と定めているが、高年法では第9条1項の義務に違反した場合について、このような私法的効力を認める旨の明文規定も、補充的効力に関する規定もなく、仮に同条1項の義務を私法上の義務と解すると、義務内容となる給付内容が特定できないといった解釈上困難な問題を引き起こす。
しかし、一方で、2010年(平成22年)2月25日 横浜地裁川崎支部判決において、事業主が作成した継続雇用制度を導入する旨の就業規則が、その手続要件を欠き無効とされ、労働者が労働契約上の権利を有する、として事業主に対して給与の支払いを命じた判決が言い渡されました。
この場合の手続要件とは、定年延長や定年撤廃をするのではなく、継続雇用制度を導入する場合には、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては、その労働組合」との書面による協定により、そのような組合がない場合には、投票や挙手などで選出された「労働者の過半数を代表する者」との書面による協定による合意が必要であることをいいます。
この事案では、会社が協定を結んだ相手が過半数の代表者ではなかったため、この事業者が行った継続雇用制度の導入手続きは高年法9条2項に反し無効であるとされました。
そして協定による雇用継続制度が有効に成立していないため、会社の定めた継続雇用制度は無効であり、会社の定めた継続雇用の条件を満たさなかったため退職とされた従業員について、労働契約上の従業員としての地位を有するとして、会社に対して給与の支払いを命じました。
この判決では、高年法の私法的効力について論じないままに、また、前述の大阪高裁の判決についても触れることなく、会社が高年法で定めた手続きを違反したことにより退職した従業員について当然に従業員の地位が復活するとしています。
その意味で論理的に脆弱な判決ではあるのですが、この判決はこれで確定しています。
前述の大阪高裁の判決については上告されているため、最高裁の判断が強く待たれるところです。
継続雇用制度を設定する事業者は、代表者選定手続きが適正かどうかの点も含めて、高年法の定める手続きを履践しているかについて再度確認が必要かと思われます。