「循環取引」について
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冷凍讃岐うどんで有名な㈱加ト吉(香川県観音寺市 東証一部・大阪一部)が、複数の取引先との間で帳簿上だけで売買を繰り返す「循環取引」をしていたのではないかということを監査法人から指摘されたという報道がされています(平成19年3月26日の日経新聞)。
今回はこの「循環取引」について書きたいと思います。

「循環取引」とは、商品が順次売買され、最終的に当初の売主が商品を買い受けるという一連の取引きのことをいい、「環状取引」ともいいます。字面からわかるようにABCDと順次売買されて最後にDからAが買い受けるため、売買の当事者を並べると環ができるのでこのように呼ばれます。「循環取引」、「環状取引」には商社が関わることもあり、商社の役割に注目して「環状つけ売買」ということもあります(合意に達した売買契約に商社が信用供与するために割って入る場合、商社の行う売買を「つけ売買」と言うことがあります)。本稿では上記新聞記事に従い「循環取引」と言うことにします。

このような取引きは、取引に関与する者の一部が金融の利益を受けるために行われることが多いようです。典型的な場合は、A→B、B→C、C→D、D→Aと商品が取引きされ、それぞれの取引きで代金が決済されますが、代金決済の時期が順次遅くなることによって、Aは自分がDから商品を買い戻すまでの間はBから受け取った売買代金を運転資金等として使用することができます。もちろん、AがDの商品を買うときには、Bに売ったときより高額になっています。その代金を工面するために、循環取引が繰り返されることもあります。また、循環取引に関与する当事者としては売上が増加することになり、これも循環取引を行う動機の一つといえます。
上記記事によるとみずほ銀行が加ト吉に対して保有する債権三十数億円が未回収になっているということです。詳細はわかりませんが、多分、問題となっている「循環取引」に関与した会社が加ト吉に対して有する債権をみずほ銀行が買取って加ト吉に請求したところ、加ト吉は何らかの理由(後記のように商品の引渡しがないこと等)で支払いを拒絶しているため、上記記事のような報道になったのだと思います。

このような循環取引による紛争に関する判例は多数あり、典型例は、循環取引の当事者の一人が請求した売買代金の支払いが買主に拒絶される場合、たとえば上の例のCがDに請求した際にDが代金の支払を拒む場合です。つまり、もしAの信用状況が悪ければ、DとしてはCに代金を支払ってもAから回収できるかどうかわかりません。そのような場合、Dは商品の引渡しがないことを主張して売買代金の支払いを拒絶して損失を回避しようとすることがあり、そのため紛争化するのです。
そこでの争点の一つは循環取引であることを知っていたかどうかです。商品の売買契約では商品を引き渡さなければなりません。
しかし、循環取引では、最終的に最初の売主が商品の引渡しを受けるので、順次商品を引き渡していくというのは無駄だということなり、引渡しを省略して、伝票の授受のみで代金決済を行うことを合意していることが多く、循環取引であることを知っていれば、結論としてはそのような合意があったと認めている判例が多いようです。
もし、加ト吉が上の例のDの立場で、その担当者が循環取引であることを知っていた場合には、判例によれば代金の支払いを免れないということになり、Aの立場にある会社が破綻しているような場合には損失が生じるということになります。
なお、上記新聞記事では「架空取引」と述べられていましたが、「循環取引」は商品が存在する場合も存在しない場合もあります。ただ、上記のとおり引渡しを省略することから商品が存在しない取引となることも多いようです。