<ポイント>
◆「コンプガチャ」におけるレアアイテムが景品類にあたる
◆「コンプガチャ」は景品表示法上の「カード合わせ」にあたる
◆「カード合わせ」の禁止はその金額を問わない
消費者庁は5月18日、携帯電話やインターネット上のオンラインゲーム(一般に「ソーシャルゲーム」)における「コンプガチャ」と呼ばれるシステムが、景品表示法が禁止する景品類の提供行為に当たる場合があるとの見解を公表しました。
ソーシャルゲームの利用者がゲーム中で使用するアイテムをオンライン上で入手する仕組みは「ガチャ」と呼ばれ、「ガチャ」で入手したアイテムを特定の種類全部揃えれば、別の希少なアイテム(レアアイテム)を入手できるという仕組みは「コンプガチャ」と呼ばれます。
今回、規制の方針が示されたのは「コンプガチャ」の仕組みです。
「ガチャ」というのは、駄菓子屋の店先などにある自動販売機「ガチャガチャ」になぞらえられています。
「ガチャガチャ」では硬貨を入れて、ダイヤルを回せば、カプセル入りのおもちゃが出てくるものの、どのおもちゃが出てくるか利用者は選べないのと同様、「ガチャ」においても、どのアイテムを入手できるか利用者も選べず、「偶然に支配」されています。
ちなみに、アイテムはオンラインゲームで敵と戦うキャラクターだったりするほかいろいろあるようです。
「コンプガチャ」とは「コンプリート」と「ガチャ」を合わせた造語、つまり、ガチャを特定の種類全部揃えて完成させ、レアアイテムを入手するという仕組みを示します。
「ガチャ」で、どのアイテムを入手できるかは「偶然に支配」されるので、欲しいアイテムを全部揃えるには、それが出てくるまで何度も「ガチャ」を利用しないといけないのが特徴です。
このような「コンプガチャ」がどうして景品表示法上、禁止されるとの判断が示されたのか。
景品表示法は、その正式名称「不当景品類及び不当表示防止法」が示すとおり、「不当な景品類」や「不当な表示」による顧客の「誘引」を防いで、一般消費者の利益を保護するための法律です。
つまり不当景品類規制と不当表示規制が二本柱であり、コンプガチャはその前者への該当性が問題となります。
同法は「景品類」について概ね次のように定めます。つまり、顧客を誘引するための手段として、企業が自社の商品やサービスの取引に「付随して」顧客に提供する物品や金銭などの経済上の利益をいいます。くじによる場合とそうでない場合を含みます。
今回の消費者庁の考え方では、コンプガチャで提供されるレアアイテムがここでいう「経済上の利益」として景品類にあたると判断されています。つまり、有料「ガチャ」を特定の種類を揃えるまで利用すれば(「取引」すれば)、レアアイテムが利用者に提供されるという意味で、そのレアアイテムは有料「ガチャ」取引における「景品類」になるというのです。要は、利用者はレアアイテムという「景品類」につられて有料「ガチャ」を利用してしまう、と判断されたということです。
ちなみに、「ガチャ」の仕組みそのものは、偶然に支配されているとはいえ、それ自体が取引そのものであるため、景品類の提供には該当しないと判断されています。繰り返しになりますが、「コンプガチャ」の仕組みとして、有料「ガチャ」の取引に付随して提供されるレアアイテムが景品類となる、ということです。
そして、行政(内閣総理大臣)は、その景品類の価額の最高額もしくは総額や、種類もしくはその提供の方法などを制限したり、そもそも景品類の提供を禁止することができます。一般消費者の自主的で合理的な選択を確保するためです。つまり、商品やサービスの選択は、価格やその品質の比較においてなされるべきものであって、あまりに高額な景品類につられて商品等が選ばれたり、景品類が「射幸心」(しゃこうしん)をあおるような方法で提供されたりするなら、それは一般消費者の利益を害するということです。
景品類の制限・禁止に関しては、大別して、懸賞によらない景品類と、懸賞による景品類に分けて、規制されています。
懸賞とは「くじ」など偶然を利用して景品類に当たり外れが決まったり、景品類の金額が決まるような場合です。
コンプガチャでは、特定の種類のアイテムが揃って「レアアイテム」が入手できるかどうかは偶然によって決まるため、その仕組みは懸賞にあたると判断されています。
懸賞に関しては、その景品類の額が取引そのものの額の20倍を超えてはならない(最高額規制)、またその懸賞期間中に提供される景品類の総額がその期間の予定取引額の2%を超えてはならない(総額規制)があります。
しかし、今回の「コンプガチャ」への規制では、その金額を問われていません。
それは行政(当時は公正取引委員会)が示す告示において、「カード合わせ」による景品類の提供は金額如何に関わらず全面禁止とされているからです。今回の消費者庁の判断は「コンプガチャ」がこの「カード合わせ」に該当するというものです。
告示によれば「2種類の文字などのうち、異なる種類の文字などの特定の組み合わせを提示させる方法を用いた懸賞」を指すとされています。
かつて、キャラメルメーカーがキャラメルの箱に、プロ野球チーム読売巨人軍の9人の選手と監督のカードを入れておき、全部揃えれば景品がもらえるとしたところ、大流行し、子どもたちはカードだけを目当てにキャラメルを買い、中身は捨ててしまうような社会現象が起こったことがあったようです(カードを揃えればもらえる景品が、キャラメル「取引」に付随して提供される景品類となります。)
その由来からして、カード合わせが、子どもたち対象の少額商品に利用され、子どもたちの射幸心をあおり、しかもすぐにあたる(カードが全部揃う)かのような錯覚を起こさせるものとの判断で、1969年以来金額を問わず、全面禁止されています。
消費者庁は、今回の「コンプガチャ」がこれと原理は同じと判断し、その考え方を公表したものです。
消費者庁の運用基準の改正案では「コンプガチャ」の仕組みが、「カード合わせ」の方法に該当するの判断を示して、パブリックコメントが募られています。
7月1日から適用される方針とのことです。