事実調査に基づく事実認定と違法性の評価
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<ポイント>
◆事実認定と、認定した事実が不正行為に該当するかどうかの評価は別である
◆事実が明確でない場合は「灰色は白」の論理が適用される
◆事務局は事実調査の結果を、意見を添えてコンプライアンス委員会等に報告する

内部通報があれば、通報者をはじめ関係者から聞き取り調査を行います。また、それと並行して、物的証拠の収集も行います。
その中心的役割を果たすのは「内部通報事務局」(以下単に「事務局」といいます)です。
事務局は自身も事実調査に当たるほか、関係部署の管理職等と密接にコミュニケーションをはかりながら、適切な人物に聞き取り調査を依頼したり、証拠収集に協力を求めたりします。
そのような経過を経て一応事実調査が了したことを前提にして、今回はその次の作業について解説します。

まず、内部通報があった問題行為について、実際に通報どおりの行為があったか否か、という「事実認定」を行う必要があります。これは、その行為が不正、違法または不適切な行為であったかどうかの判断(評価)よりも前にする必要があります。「評価」は確定した事実を前提にしてはじめてできることだからです。
例えば、セクハラ行為に関して、女性のお尻を触ったかどうか、というのが事実認定の問題、その事実があったとして、それが「セクハラ行為」に当たるかどうか、というのが評価の問題です。これを混同してはいけません。

ときには通報があった事実そのものが確認できないこともあります。被通報者が否認し、他の関係者の証言その他の証拠を総合しても、その事実があったとは断定できない(なかったとも言えないが)という場合です。
この場合は、いわゆる「灰色は白」という論理が適用され、その被通報者に対し「黒」を前提とした処分等を行うことはできません。
従って、そのような場合は、調査や周辺の観察を継続するか、真偽不明のままいったん調査を打ちきるかの選択を迫られます。
視点を変えて、将来同様の問題が生じないように、その芽を摘むような職場環境の改善やルールの充実に取り組むのも一つの方向です。

多くは、通報どおりの事実があったことが確認でき、被通報者もそれを認めている場合です。
その場合は、それが不正行為・違法行為か、どういう規範(ルール)に違反するかが次に問題になります。
セクハラの例で言うと、お尻を触ったのは事実だが、それは宴会の席でのささいな「おふざけ」に過ぎず、不正行為、違法行為と評価されるほどのことではない、という反論が出る場合などが問題となります。
このような場合に、安易にその反論を退け、主観的、断定的な評価を下すことは適当ではありません。
これに対処する方法の一つは、その行為について中立的、専門的立場の弁護士などに法的評価を仰ぐことです。それに基づいて評価を下し、処分等を行えば(確定的ではありませんが)一応の正当性をそなえることができます。
二つめは、こういう争いを想定して、事前または日常的に、ルールをできるだけ具体的に表現して、それの適用・不適用があいまいになったり、主観的になったりしないようにしておくことです。
例えば、セクハラの例だと、「相手の意に反すると認識したうえで身体に接触した場合」は処分するなどと具体的に定めておく(大阪市職員基本条例)ことです。

但し、会社をはじめどんな組織でも、いわゆる「人事権」や指揮命令に関する一定の裁量権を持っています。具体的なルールが存在しなくても、あるいは処分の対象にしなかったとしても、ある従業員をその職場に配置しておくことが不適切と考える場合は、その配転を命じることなどが可能です。
もっとも、命じられた側がそれは不当だして紛争に発展する可能性はありますが。

次に、上述の「事実認定」やその「評価」は誰が行うのか、の問題について。
事実やその評価に疑問や争いがない場合はあまり議論する必要はありません。事務局が事実調査の結果をレポートにまとめ、コンプライアンス委員会や人事部、監査室、監査役、その他一定の社内組織に、ルールに従って提出することになります。
軽微な案件は是正措置等が終了した段階での事後報告でも足りる場合があると思われます。
事実やその評価に疑問や争いがある場合は、事務局の心証に基づいて事実認定を行ったり、その評価を下すことはできません。事務局にその裁定権限があるわけではありません。従って、調査の経過に加えて、事実の真偽は不明であるとか、その評価に争いがあるとかいったコメントを付したレポートを提出することになります。
但し、事務局が多くの場合法務部門内に置かれていることも考慮し、それらの問題点に関し、事務局としての意見を合わせ提出することが必要かつ有益と考えられます。