ふすまや屏風の“中身”、ご存じですか?
漠然と、表紙と裏表紙の裏に丈夫な紙をぺらっと1枚はり付けて、中央は空間だと思っていました。
裏の裏の裏の裏にあるもの。
今回はボランティアで参加した屏風の下張り剥がしについてのお話を。
古いふすまや屏風の裏には、紙が幾層にも貼りつけられています。紙とはいっても無地ではなく、屏風を仕立てた当時に手近にある、捨ててしまうような雑紙(ざつがみ)が貼りつけられてあることもあり、その紙を下張り文書、と呼ぶのだそうです。
専門家の指導を受けつつ、霧吹き、ぬれ布巾、ピンセット、へらなどの道具を駆使しながら、下張り文書を破らないよう、かつ下の層の紙を剥がさないよう、丁寧に層ごとに剥がしていきます。剥がす紙は、コピー用紙のようなつるつるした紙ではなく、いわゆる和紙です。
仕立てた後の時代に修理をして、新たに貼りつけた可能性もあります。一層目をスケッチして剥がす、二層目をスケッチして剥がす、三層目をスケッチして…と順番に剥がします。
剥がしていくと、婚礼かと思われる祝いの席のお品だてが書きつけてある紙、漢字練習をしている紙、水墨画、自分のサイン(漢字)の練習、などなどが出てきました。昭和初期のものかそれより前か、屏風を仕立てた当時もしくは修理したときの時代を下張り文書から読みとることができます。仕立てたときには不要な紙でも、剥がしている今では地域の史料となる大切な文書になるとは、なんとも不思議です。
今でこそ、紙は巨大な機械でロール状に作って裁断するという技術がありますが、少し前までは手透きで紙を作るため、大きいサイズの紙を透くことは限界があり、かつ紙は庶民にとっても貴重なものでした。だからこそどんなに小さな紙でも再利用して貼りつけたのかもしれません。
剥がしていくと、仕立てたであろう人物の性格もかいまみえました。ある層は規則的に碁盤の目のように貼りつけてあるのに、その下の層は不規則に貼りつけまくってあったりと、さまざまです。雑紙の形が四角いものだけではなく、端切れのような形もあるので仕方がないともいえますし、表紙をかけてしまえば裏側は見えないので、不規則に貼ろうが規則的に貼ろうが表からは分かりません。
どんな文書が隠れているのか、宝探しのようなわくわく感もありますが、不馴れな手つきで剥がし作業にあたる身としては、規則的に貼ってあるほうが剥がしやすい、というのが正直なところです。
ふすまや屏風の裏側に、決して遠くない100年ほど前の市井の人々の営みを見つけることができるのだと感慨深い一日でした。
このような史料は、残そうとしなければとるに足らないものとして捨てられてしまいます。裏の裏の裏の裏には、地域の歴史がひっそりと眠っていました。