執筆者:気まぐれシェフ
2024年10月15日

通勤途中にある有名なおでん屋さん。ついに連日行列の季節が始まった。
そのお店は年中通しておでんを出しているが、気温で行列の長さが変わる。夏は行列どころか呼び込みをするくらいなのに、朝晩がいくぶん涼しくなってくるとどこからともなくお客が現われ行列ができる。寒くなればなるほどその行列は長くなっていくのだ。

まだ全然寒くないけれど、おでん行列を見てしまったので私の胃袋もさっそく温かいものを欲し始めた。
すき焼きはビールやワインと合うから夏でもよく作るが、お鍋はそういえば春以来食べていない。となれば、今夜は昆布とかつおの出汁でお鍋にしてみるか。玉ねぎをたっぷり入れたら甘くなって美味しいに違いない。鶏よりも魚の気分。
スーパーに行くとお鍋仕様にさばかれたカワハギが私を待っていた。アンコウとかなり迷ったが今日の気分はさっぱりプリっと触感のカワハギだ。あさりも入れたかったけど見当たらず。白菜は恐ろしいほど高かったので却下。人参は家にまだあったから、ごぼうと立派なしめじと白ネギを買って帰路に着く。

手洗いうがいをしたら、さっそく作っていこう。お腹もほどよくすいてきた。
玉ねぎは甘さとサクサクの歯ごたえを出したいのでだいぶ大きなざく切り、ごぼうはささがき、人参は薄く。白ネギとシメジも適当にカット。
酒と塩麹で風味をプラスしてここで一度味見。よし、おいしい。お腹がぐうと鳴る。これは日本酒が合いますな。
では野菜を投入。蓋をしてとりあえず5分。その間にカワハギをさっと湯通しして臭みをとっておく。冷蔵庫にちくわを発見。煮込むとかなりいい味が出るのでこれも投入。ほどよく煮えてきたところで今夜の主役のカワハギをそっとすべらせるように入れて火が通ったら、最後に鍋全体にたっぷりのわかめと白ネギの細切りを乗せて1~2分蓋をする。
あとは副菜を数品食卓に並べてお酒の用意をすれば完成である。

いったいいつから鍋や煮物が好きになったのか。
子どもの頃は晩ごはんが煮物だとわかると心底がっかりしたし水炊きにいたっては絶望しかなかった。作ってくれた親には悪いがテンションだだ下がりで楽しかった1日が台無しである。大人になっても、つきあいでおでん屋さんに入ることはあったが満足げなおじさん達とは違って正直そんなに嬉しいものではなかった。
鍋は締めのうどんに辿り着く前に薄味の野菜で不本意に満腹になってしまうし、煮物はおかずにならないうえに締めすら無い。出汁がしゅんでる~とよく聞くが、だからなんなのさ。パンチのあるおかずでご飯をもりもり食べてこその幸せなり。

と思っていたのだが、年齢のせいか、近ごろ質も大事になってきた。出汁の旨味がわかるようになったのが大きな要因だろう。素材そのものをゆっくり味わうようになり、ヘルシーなものにも多少目覚めた感がある。
調理自体も、焼く揚げるよりも煮るほうが断然手間が無く体力の消耗が少ない。あの頃の「とりあえず煮物」に流れがちだった親に合点がいった。

さてさて、出来上がったカワハギ鍋。さっそくアツアツのところをいただこう。
セリーグ連覇の夢ついえ、落ち込みまくりの虎党の心をあったかお鍋がほぐしていく。はふはふと会心の出来の鍋をつつけば、ついつい出がちな虎戦士への愚痴も止まるというものだ。
岡田監督への感謝に、ドラフト会議に来年のコーチ陣予想と、考えることは山ほどある。そして、まだ日本一連覇の夢が残っている!
お鍋の効果か虎のせいか、額に汗がにじむ。そんな熱くて暑くてのどかな初秋の夜。