マイパラダイス、それは大型書店である。
ここ数年は自分時間を確保することが叶わない毎日だが、先日思わぬ空き時間ができて実に3年ぶりに書店に行った。しかも少なくとも2時間も滞在できる。ワクワクが止まらない。
お目当ての書籍はオンラインで在庫確認済みだから焦って目的の棚に行く必要はない。まずは入り口付近にあるハイセンスなステーショナリーコーナーで気分を高める。店内にあふれる新商品。無意味にペンの書き味を試してみたりハンコを押してみたり。目的のものをひっ掴んでレジに直行するという時間に追われた味気ない買い方をしているものだから、ブラブラタラタラとあてもなく店内をうろつくことに時間を使えることが極上の贅沢に思える。
ステーショナリーを満喫したら、いよいよ本のコーナーに突入である。
久しぶりのその空間は文字通り本であふれていてる。これがすべて手に取り放題の読み放題、まさにパラダイス。
入口の新刊コーナーで早速足が止まりそうになるが、すでに30分をステーショナリーで費やしてしまったので小説のコーナーへ進む。
数多の小説家の中からお気に入りの人を発掘するのは至難の業であるが、ここには店員さんおすすめの作品を並べた棚があって丁寧なコメントがついているのが有り難い。気になったものを手に取ってはペラペラとめくり、紙の質感、手触り、フォントを確認しつつ冒頭部分に目を通す。
電子書籍が当たり前になりつつある世の中だが、ページがふにゃふにゃになって背表紙がボロボロになるまでお気に入りの本を読み返してきた私は、やっぱり紙の手触りを手放せないのである。
続いて雑誌のコーナーへ。スポーツにグルメ、ファッション、園芸に収納術。多種多様の表紙を眺めるだけでも今のトレンドが見えてくる。雑誌で「今」を仕入れたらお次は旅行。あの街に新スポットはできたのか、もしチャンスがあったらどこに行こうか。最終的にはグルメページばかりを熟読してしまうのだが。
さあ、そして専門書コーナーへ。ここはいつも静かだ。みんな1人でやってきて静かに本を探し静かに選んで去っていく。近くの本を開くと目がチカチカするような難しい文章や図解の洪水。一生交わることのないであろう業種の一端を垣間見ることができて非常に楽しい。医学書を手にするのはお医者さん?この人は建築関係?服飾関係?彼らの職業を勝手に想像するのも楽しかったりする。資格の棚には参考書が並び、何か試験を受けてみようかなという気になったりならなかったり。専門書コーナーを出るころには頭脳レベルが一段あがった気がするのは気のせいか。
隣の洋書コーナーで美しい表紙を愛で、優雅な気分を高めたところでタイムアップとなった。
本を抱えて家路へ急ぐ足取りはとても軽かった。
こちらの嗜好を勝手に決めつけておすすめをゴリ押ししてくるネットの世界と違い、書店には、自分では読もうとは思わない、存在することも知らない分野の本がそこここにあって、知らないことを知ることの楽しさに時間を忘れ没頭してしまう。灰色の脳細胞が活性化するのだろうか、脳神経が一気に四方八方に伸びる感覚を覚える。狭くなりかけていた視野が外へ外へと広がっていく。ここには世界の全てがある。
書店が激減している。お気に入りの書店も何件も閉店してしまった。
こんなに世界を身近に感じられるのに、その一部を手元に置いて触れることができるのに。書店が、書籍が消滅してしまわないよう、どうか多くの人がこの価値に気づきますように。
書店には愛がある、書店には夢がある、書店には希望がある!書店には、、、!
(ご存知の方は「月亭八方の楽屋ニュース」風に高めの声でどうぞ)