執筆者:スオミュージック
2024年07月15日

でかっ!!(大きい)
しろっ!!(真っ白)
もっふもふ!!(とにかくもふもふ)
目を丸くするとはこういうことかと初めてボンドを見たとき合点した。

イヌ好きでもネコ好きでもない。イヌ嫌いでもネコ嫌いでもない。
どちら派と問われたら迷わずネコ派ではある。
散歩中のイヌがいたら、あぁイヌがいる、だし、歩いているネコを見かけたら、あぁネコがいる、程度で、列をなしているアリを見つけて、あぁアリがいる、と思うことと大差ない。
犬猫含む動物とふれあいたいとか、飼ってみたいと思ったこともなく、しいて挙げるなら亀くらい。ただ、本当に万年生きるかどうか目撃できるわけでなし、万年面倒を見ることができるわけでなし、いまのところ、そこらへんのお寺などの池にいる亀を眺める程度で満足している。

さて、ボンドの話にもどる。
ボンドとは、犬の名前である。本名ではない。というより本名を知らない。犬種、性別、年齢などなど不明。10年ぶりに引っ越しをして通勤経路が大きく変わり、不慣れな足取りで駅に向かって歩いているとき、大きくて真っ白でもふもふのボンドが(飼い主さんと)歩いていた。

ボンドの大きさは、(アニメのなかで)アルプスに住むおじいさんと少女と暮らしている犬、ヨーゼフと同じくらいか。再放送でアニメを見たとき、何よりも感動したのはヨーゼフのふるまい。身を挺して少女を守ったり、危険をおじいさんよりもはやく察知したり、幾度もヨーゼフに心をうたれて涙した。もしもアルプスに引っ越すことがあっても、ヨーゼフがいれば心丈夫である。
そんなことをつらつら思いながら三度目にボンドを見かけとき、ふと気づいた。
この犬は、あの某人気アニメ、スパイな三人疑似家族に出てくる犬、その名も『ボンド』に、姿かたちがとてもよく似ていることに。
この犬は、そのアニメに出てくる犬『ボンド』にそっくり→ボンド=接着剤=白い→まさに「ボンド」である、ということで勝手に「ボンド」と命名した。(ちなみに、アニメの『ボンド』の由来は接着剤の色は全く関係ない。)
いつの間にか散歩中のボンドを見つけるたびに、声には出さずに「あっボンドだ!」とつぶやき、なぜだか嬉しくなっている自分がいた。向こうはなにせ大きいので、通りにいても川沿いを歩いていても遠近関係なくすぐ見つけられる。

散歩中のボンドに出くわすと、こっそりと観察する。ボンドは斜め前下をまっすぐ見据え、横道にそれたり走りだしたりせず、吠えたり立往生したりもせず、まっすぐゆっくり歩いている。鶏出汁を使ったラーメンで繁盛しているお店の前を歩いているのを見かけたときは、少し鼻先をラーメン屋の入り口のほうに向けていたけれど、歩みを止めることはなかった。
アニメの『ボンド』は全速力で走ることがあるものの、こちらのボンドはとにかくゆっくり歩いているところしか見たことがない。ゆっっっくり、と「っ」を多めにしたいほど、とてもゆっくり歩く。からだは大きいけれど、周りを威圧するようなオーラもなく、ゆったりした空気と時間をまとって歩いている。

ボンドの本当の名前はなにか。知りたいような、ボンドのままにしておきたいような。
おそらく、犬好きな人であれば、難なく飼い主さんに聞けるのであろうけれど、こちらは全くの素人。犬を連れた人に話しかける術は持ち合わせていない。イスラム建築マニアさん執筆エッセイ「散歩中に声をかけてくる人(私調べ)」を参考にしよう、とあらためて読んでみたものの、そもそも『可愛いワンちゃんですね』からつまずく。可愛くないわけではない。大きなからだでゆったり歩いている姿は、とても微笑ましい。
とはいえ、大きくて白くてもふもふのボンドを目の前にしての第一声が『可愛いワンちゃん』・・・・・違う気がする。「可愛いワンさんですね」はもっと違う気がする。
ここはやはり、このままこっそりと静かに見守ることにしよう。ボンドの悠々とした姿に心を和やかにしてもらっているだけで充分なのだから。