今年のIPBA(Inter-Pacific Bar Association、環太平洋法律家協会)の総会は香港で開催された。開催日は5月6日から9日と今年の大型連休の後半部分であり、早々とホテルと飛行機を押さえての参加であった。なお、IPBAとは、環太平洋でビジネスローを取り扱う弁護士が弁護士間の情報ネットワークをつくる機会を提供することを目的とした団体で、1年に1度、各国の持ち回りで開催される総会が主たる活動である。
今回が私の初めての香港訪問であった。正確に言えば、20年くらい前に乗り継ぎで啓徳空港には行ったことがある。香港の高層ビル群を縫うようにして飛行機が着陸したことを覚えている。啓徳空港の中は雑然としていて、映画にでてくる香港の雑踏を彷彿とさせるものであった。しかし、新空港(香港国際空港)は巨大で整然とした空港で、入国後すぐに乗れる高速鉄道で市内まで約30分程度と非常に便利な空港である。
香港市内の最初の印象は、とにかく蒸し暑いということであり、これには最後まで辟易することになった。香港滞在中は毎朝、後述する香港競馬場内をジョギングしていたが、少し走るとウェアが汗でぐしょぐしょに濡れていた。他の多くの男性ジョガーは上半身裸で走っていた。(なお、競馬場は早朝から市民に開放されており、レースの行われるターフコース内にはジョギングコースやテニスコート、フットサルコートなどがあり、多くの市民が利用している。)
ホテルにチェックインした後、IPBAの登録に会場(Hong Kong Convention Center)に行くのに地下鉄で一駅乗った。地下鉄の入場は非接触のICカードで簡単にでき、ほとんど待つことなく電車がきた。日本の大都市と全く同じ便利さである。むしろ、香港の地下鉄の方が頻繁に運行されているという印象すらあった。
登録後に香港競馬場のパーティルームで立食形式のWelcome Receptionがあった。このWelcome ReceptionでIPBAの幕が開くわけだが、旧知の弁護士との再会や新しく知り合った弁護士と名刺交換等を始めることになる。
このWelcome Receptionで何人かのベトナムの弁護士と知り合いになった。これまでのIPBAではベトナムの弁護士とはなかなか巡り合わず、京都で一人知り合っただけだった。最近はベトナムへの進出を考えている企業も多く、ベトナムでも国際ビジネスのために弁護士需要があるということから、より多くのビジネスチャンスを求めてベトナム人弁護士が参加したものと思われる。
同じアセアン諸国のミャンマー、ラオス、バングラデシュの弁護士も探してみたが、残念ながら巡り合えなかった。
Welcome Reception以外にも、Cultural Nightという夕食会やGala Dinnerがある。前者はその国の伝統芸能などを視聴したり、体験したりするという趣向を加味した夕食会であり、今回は九龍半島の東の方にある名門ゴルフコースのクラブハウスで行われた。このゴルフクラブはビーチに面した風光明媚なところであり、海の水も澄んでいるようだった。滞在中に九龍半島から香港島までスターフェリーに乗ってみたが、その海の水と比べると格段にきれいにみえた。香港の弁護士に香港でもビーチで泳ぐのかと尋ねると、九龍半島の東の方のビーチやそのあたりの島のビーチでバーベキューをするのは割合一般的な休日の過ごし方だという話だった。そういえば、映画「慕情」でもビーチのシーンがでてきたという記憶がある。
総会期間中の午前、午後には色々なテーマごとにセッションが開かれる。私の参加したセッションは各分野における各国の法制度の比較であり、例えば投資法制度、M&A法制度、独禁法制度である。また、外国法弁護士事務所の活動の規制についてのセッションも興味深かった。香港では自由に外国法弁護士事務所が活動できるため、大規模な法律事務所はほとんど外国資本の法律事務所ということである。
これに対して、シンガポールは法律の分野ごとに外国法弁護士事務所に門戸を開放してきたことから急激な変化はある程度抑えられているようである。
セッションの後に話をした香港の中小規模事務所の弁護士は急激な門戸開放については否定的な意見であり、日本は香港の轍を踏まないようとアドバイスされた。このセッションの合間にコーヒータイムがあり、主催者の用意してくれたコーヒーを飲みながら、各国の弁護士と名刺交換して短い会話を交わしたりする。また、食事のときに会えなかった旧知の弁護士と再会を喜んだりするのである。
香港で出会った印象的な弁護士としては、韓国人ながらベトナムで弁護士をしている方で日本語がとても流暢なので、当然に留学経験があると思って尋ねると、釜山出身で日本語をテレビで覚えたということであった。今でもユーチューブで、私は題名しか知らない日本のテレビドラマを暇があれば見ているということだった。
また、ロシアの女性弁護士で、ご主人が日本人ということであり、とても美しいだけではなくとても流暢な大阪弁を話すことができる。このような普段お会いする機会のないユニークが弁護士と気さくに話ができるのもこのIPBAの魅力であり、できるだけ今後も参加しつづけて刺激をもらいたいと思っている。