2019年以来5年振りにIPBA総会に出席した。今年は10大会振りに日本が開催国となり、約20年振りに東京が開催地となった。IPBA(Inter―Pacific Bar Association、環太平洋法律家協会)とはアジアを中心とした環太平洋でビジネスローを取り扱う弁護士の団体である。1年に1度、各国の持ち回りで開催される総会が主たる活動である。元々の予定では2020年4月に東京総会は開催される予定であったが、コロナのために1年延期されたが、それでもコロナはおさまらなかったため2021年の東京総会は開催されなかった。その後、東京に代わって上海でオンライン大会、ドバイで対面の大会が開かれた後、満を持して今年4月の開催となった。
会場は、新装オープンしたオークラホテルである。前回、日本で行われた2011年のIPBA京都・大阪大会は、東北大震災の直後で、福島原発の事故の影響で多くの参加予定者がキャンセルするという中で行われた。今回の東京大会はコロナ禍のために4年延期となったが、能登地震という災害はあったものの、日本そのものの安全に危惧を抱く外国人はあまりおらず多くの国からの参加者があった。
ただ、十数年前の京都・大阪大会とは国際情勢に大きな違いがある。ロシアはウクライナに侵攻したが、十数年前に国連の常任理事国の一つであるロシアが当事国として他国を相手に公然と戦争を始めるなどということは想像していなかったと思う。また、イスラエルのガザ侵攻も、パレスチナ問題は第二次世界大戦後、繰り返し紛争の種となってきたが、これほどに大規模に民間人を犠牲にする事態に発展するということは予想していなかった。これらに加えて中国と台湾の問題があり、半ば公然と武力統一を行おうとしているように見える事態は、少なくとも2011年には考えにくかった。経済面では円安の進行である。2011年の円・ドルレートは1ドル80円前後と現在のほぼ倍であった。日本経済の低迷に愕然とするし、その頃と比べると外国人旅行者にとって現在の日本は安い国になったことがよくわかる。
総会では数年間、顔を合わせていなかった諸外国の知己と再会できた。2019年シンガポール大会までほぼ10年間、毎年顔を合わせていた弁護士の多くは今回の東京総会にも来ていた。皆それなりに年をとっていたが元気に近況を伝えあったりしたのは楽しかった。もちろん、新たな弁護士との出会いもあったが、少し驚いたのはロシアの弁護士二人と名刺交換したことだ。ロシアのウクライナ侵攻後、ロシア人が日本に簡単に渡航できることも知らなかったが、現在、日本とロシアでの経済活動は非常に低調で、少なくとも弁護士の需要などないと思われるのに、わざわざ参加していたのだ。理由を尋ねてみると、欧米、日本以外では、ロシアと通常どおり取引をしている国はあり、そこでロシア企業の商標などの知財を無断使用している例があって、それを差し止めるため、そういう国の弁護士と知り合いになる必要性があるということだった。確かに、インドをはじめとする東南アジア諸国はロシアとの取引きを続けているから弁護士需要はあってしかるべきだろう。日本からだけの視点ではわからないものである。
IPBAの愉しみの一つは毎晩の趣向をこらした食事会である。Welcome Reception、Gala Dinner、Farewell Partyが開かれる。Welcome Receptionはどこが開催地であっても、大体、ホテルの立食パーティであり、バイキング形式で料理や飲み物を取りながら、名刺を交換しながら色々な弁護士と話をする。Gala Dinner、Farewell Partyはそれぞれの国・開催地が、その国の文化や特色を出しながら参加者をもてなす。過去の総会では、たとえば韓国・ソウルではKPOPのライブを見ながらディナーを頂くとか、シンガポールではオープン前のユニバーサルスタジオでのディナーとかがあった。京都・大阪総会では、仁和寺や高台寺などに参加者が分かれて、ライトアップした庭を見ながらケータリングの食事を頂くという趣向で、外国からの参加者に大いに喜んでもらった。今回の東京大会では、港区の美しい日本庭園のある八芳園で、阿波踊りの実演をしたり、縁日のヨーヨー釣りや射的などの催しものを出したりして古き良き日本も楽しんでもらうというものであった。外国からの参加者にはうけていたようである。ただ、おもてなし度、喜んでもらえた度としては京都・大阪総会の方が少し上だと思った。
次回はシカゴで行われるそうである。北米では、過去にはロサンゼルスとバンクーバーで開催されたが、シカゴは環太平洋という視点からは少し離れるし、日本からはこれまでで一番遠いところでの開催となる。成功をお祈りしている。