2005年09月01日

いよいよ衆議院総選挙である。リアルタイムで読んでいない読者の方のために状況を若干補足説明しておくと、今回の衆議院総選挙は郵政民営化法案が参議院で否決されたことを受けて、小泉首相が「国民の民意を問う」として衆議院の解散をしたものである。候補者の方は残暑厳しい中、遊説等で走り回っているようであり、私の自宅の塀にも家内の友人からの依頼でポスターを貼っている。

私は、学生時代から修習生時代を通じて、あまり選挙に行っていなかったのであるが、細川政権成立の際の衆議院選挙からは毎回欠かさずに全ての選挙に行っている。それだけではなく、国政選挙の場合には選挙速報も夜遅くまで、家人が寝しずまった後も、延々見ていたりする。これは、深夜に全英オープンゴルフやサッカーワールドカップを見たり、プロ野球ニュースのはしごをするのと感覚的には大きな差異はないかもしれない。

ところで、先に、毎回欠かさず選挙に行っていると述べたが、1996年から1998年のカナダ留学中は別である。当時は在外邦人が選挙権を行使する機会はなかった。この間に行われた1996年10月の衆議院議員選挙、1998年7月の参議院議員選挙には投票しておらず、どのような選挙状況で、結果はどうだったかは全く記憶にない。何か興味はありながらも、自分が参加していないことから他人事のような気がしていた記憶があるだけである。

そのかわりというか、滞在中の1997年5月にカナダで総選挙があった。これは1993年から2003年までの長期政権を樹立したジャン・クレティエン前首相のもとでの初めての防衛戦的選挙であり、その信認を問う意味を持つ選挙であった。ただ、カナダは議院内閣制であって、アメリカ合衆国大統領選挙のような国の唯一の指導者を選ぶという雰囲気は全くなかった。また、カナダは連邦制であり、各州(アメリカ合衆国のStateに対して、カナダの場合にはProvinceという)の独立性及び権限も相当強いために、国政選挙が盛り上がったという記憶はない。

選挙運動のやり方も相当に異なっており、日本のように選挙カーが連日、候補者の名前を連呼して走り回るということはなく、訪問による支持のうったえが主たるもののようでであった(もちろん、私達日本人には選挙権はなく、残念ながら投票の約束はしてあげられなかった)。候補者の統一写真掲示場のようなものもあるにはあったが、大々的なものではなかった。非常に静かなものであった。ただ、あちこちの家に支持する政党のステッカーを貼ったり、庭に政党旗を立てたりしていて、これはなかなか華やかなものだったが、これくらいが選挙らしい風景だった。

投票日についても、カナダでは平日に行われる(ことが多いようである)。つまり、仕事の合間に投票に行くのであるが、投票場所は自宅の近くであるから投票のために帰宅しなければならない方も多い。これは職住があまり離れていないバンクーバーだからできることなのであろう。雇い主は、従業員が勤務中に選挙に行くことを認めなければならず、私が出入していたクラーク・ウィルソン法律事務所のみんなも休憩がてらに選挙に行っていたようである。また、選挙の立会人等については多くの人がボランティアで関与しているようであり、私の友人のデビット・アンダーソンも法律事務所を抜けて昼間の数時間をこれにつかっていた。

この頃のカナダは投票率も高かったが、現在は60%前後であるらしく、日本と同じくらいである。カナダ人は割合選挙好きの国民だという印象が強い私にとっては、このような投票率の低下は意外である。
なお、一口に選挙といっても、お国柄により様々であるが、先進民主主義国としてはギリシャの制度がユニークであるらしい(罰則により投票が強制されており、出生地で投票することが原則である等)のだが、詳細については村上春樹氏が「遠い太鼓」というエッセーで述べられているので、興味のある方はご一読ください。