逆上がりをする夢を見た。
それは突然のことだった。普段生活していて逆上がりに思いを馳せることなど当然ない。
自慢ではないが、人生で逆上がりを成功させたことは一度もない。
やや肥満気味で、運動は嫌いではないが得意でもない小学生だった私は、跳び箱もマット運動も鉄棒も、いわゆる体操競技のようなものはからっきしダメだった。
しかし、中高で所属した体育会系の部活動が厳しかったおかげで運動能力は強制的に引き上げられ、中学以降は運動神経が良い顔をして生きてきた。
小学生のときにできなかったことは大体中高で達成した。
3段ですら恐怖を感じていた跳び箱は、8段を跳ぶだけでなく、台上前転だってできた。マット運動も課題とされた技は全て成功させた。でも鉄棒だけは、小学生以来触れる機会がなかった。
幸い良い友人に恵まれており、体育の授業で笑われたりからかわれたりすることはなかった。親や教師からできないことを厳しく叱責されたこともない。だからトラウマの類ではない。
たぶん純粋に逆上がりだけが心残りなのだ、人生の些細な宿題として。
夢で見た逆上がりの、あの振り上げた足の付け根が鉄棒にピタッと密着する感覚、腹に鉄棒が食い込む感覚、腕の力で身体を支え重力に逆らって回転させようとする感覚。
どうして経験したこともないのにこんなにも無駄に解像度が高いのか。悔しい。自分にできないことがあるのが。逆上がりに未だに無意識に囚われている自分が。
というわけで、できたからなんだというわけでもなく、披露する場ももちろんないのですが、夢に突き動かされ、人生初の逆上がりを成功させるべく、まずは筋トレを始めました。
そもそも世の中の何割くらいの人ができるものなのだろうと気になって調べたところ、ざっくり65〜75%の人はできる(できた)そうです。思ったよりも自分が少数派でお尻に火がつきました。
今後、私がちょっと誇らしげな顔をしていたら、「ああ、ついに回ったんだな」と思っていただけたら幸いです。