かつてはアグレッシブで八面六臂の仕事ぶりを自慢にしていた私ですが、最近は仕事にも日常生活にも少し余裕をもって処していくことを心がけています。
幸い、私が一手に引き受けていた事務所のマネージメントの仕事は池田・川村弁護士がやってくれる体制ができました。
また、アソシエート弁護士が成長してきたので、丸投げはしないものの、彼らに仕事の多くを任せることができるようになりました。
現在では、私自身の事務所における立場、使命は次のようなものと心得ています。
- 新しい案件の依頼があったとき、「事件の筋を読み」「戦略・戦術を決定し」「着地どころを読む」という事件処理の基本方針を決定すること。
- 事務所の経営基盤を確かなものにし、来るべき競争時代に正当派法律事務所として社会的評価が得られるような態勢を整えること。
- 長年の経験によって私が得た弁護士として、また社会人としてのノーハウを後輩弁護士たちに伝えていくこと。
1については、年令や経験年数から言って、私にまだ「一日の長」があるようです。
2について、当事務所の態勢は、最近かなり満足すべき状態になってきました。
平成15年1月から事務所を法人化し、経営の安定と継続性の基礎ができました。
8人の弁護士(近い将来10人にしますが)がそれぞれ得意分野をもち(専門化)、どんな案件が持ち込まれても対応できる状態になりました。
平成15年5月からは、新たに中国人弁護士(日本の弁護士資格はありませんが)を採用し、懸案だった中国関連の渉外事案にも対応ができるようになりました。
3については、できるだけ多くの機会を作って若い弁護士とディスカッションし、そのなかで私の考えを伝えていこうと思っています。
もちろん私の言うことをすべて採用してくれる必要はありません。
しかし、弁護士(司法)と社会との好ましい関係や、弁護士(司法)が脱却すべき過去のよからぬ慣習などについての私の考えにはぜひ耳を傾けてほしいと思っています。
ところで、私が当事務所の若い弁護士に口を酸っぱくして言っている弁護士の心得が2つあります。
第1は、「迅速処理」、つまり依頼事項や裁判を迅速に処理することです。
第2は、「サービス精神」、つまり依頼者はお客様というサービス精神を忘れないことです。
いずれも過去の弁護士には欠けていた点です。
1については、多くの弁護士に(弁護士だけでなく裁判官もそうですが)「時間の観念」がなさ過ぎます。
「ドッグイヤー」というのは、コンピューター技術が人間の時間の7倍の早さで進歩するということですが、実社会の活動は弁護士や裁判官の時間感覚の10倍の早さで動いています。
そんな悠長なことをしているから、「弁護士に頼むと金と時間がかかる」とか、「裁判は長引くもの」という社会風潮を定着させてしまったのです。
「司法」というものが実社会から信頼され、手軽に利用され、公正な社会を維持するシステムであるはずなのに、この「時間感覚のズレ」によってその機能を果たしていない、というのが現実です。
当事務所のモットーはとにかく「迅速処理」です。
裁判の場合は、2回の期日をかけて行う手続を1回で済ませることを目標としています。
主張や証拠の提出は小出しにせず、早い機会にすべて出し尽くすことも心がけています。
このようなことは、弁護士さえその気になればさほど困難なことではありません。
それを過去の弁護士はしようとしなかったのです。
長い間競争が少なく、怠慢を咎めるシステムができていなかった結果です。
第2の「弁護士の依頼者に対するサービス精神」について。
過去の弁護士は、苦労しなくても仕事に不自由しない、みんなに「先生」と呼ばれて頭が高い。「営利行為でない」というドグマとうぬぼれをもっている、などが原因で、依頼者に対するサービス精神が著しく欠如しています。
先の時間観念の欠如もその一つですが、そのほか、依頼者にわかりやすい説明をしない、依頼者の住所や会社に出向こうとしない、裁判の経過を報告しない、弁護士費用の根拠を説明しない、接待を受けるのを当然と思っている、等々。
弁護士の人数が増え、競争が激しくなると必然的にこのような態度は改善されるかもしれませんが、当事務所では、その前に、本来お客は依頼者、こちらは仕事をさせてもらう立場、という自覚を持つように心がけたいと思います。
当事務所のホームページが好評な理由の一つは、できるだけ専門用語を使わず、一般人にわかりやすい文章だからだと思います。
また、当事務所では、裁判が開かれる都度、その日どういうことが行われたかを、すぐに「裁判経過報告書」にして依頼者に送ります。
まだまだ不十分ですが、法曹界でほとんど言われることのないこの「サービス精神」を当事務所の若い弁護士には実践してもらいたいと思っています。