最近、私が愛読しているのが中央公論新社の中公新書のなかの「物語〇〇の歴史」シリーズである。今の所、イタリアIとII、スペイン海洋帝国の黄金時代編と人物編、オーストリア、オランダといったメジャーな国にイスラエル、チェコ、バルト3国、中東といった国々そして最近世界中の注目を浴びているウクライナの合計11冊、11ヵ国(中東を1国として)の物語を読んでいる。
他にも世界史の本として、中央公論社の世界の歴史と人類5000年史などの年代別に歴史を追っていく形式(編年体)のものも読んでいるが、この物語シリーズは、たとえば人物に焦点をあててその人物が生きた時代を中心に記述するといった工夫をした書き方をしていたりする。また、上記の編年体で記述しているものもあるが、各章でテーマを決めてメリハリの効いた形になっていることが多いように思われる。このシリーズのいい点は、ある時代を集中的に記述し、それが古代から現代まで点在するのでその国の各時代を実感しやすいことである。逆に、書かれていない期間の歴史がわからないので別の本で少し埋めないとつながりの理解ができなくなるという不便を感じることもある。
面白かったのは、イタリア、スペインといったところである。イタリアはローマ帝国の皇帝ハドリアヌス(76-138)からヴェルディ(1813-1901)までの合計18人の各時代を代表する人物に焦点を当てて書かれている。有名どころとしては、上記の二人以外には、教皇グレゴリウス、皇帝フェデリーコ(フリードリッヒ)、ボッカチオ、コジモ・デ・メジチ、ミケランジェロといった高校の世界史で習った人物がその性格や人によってはそのだらしなさ(昨年から今年にかけて大阪、東京で行われたメトロポリタン美術館展の目玉作品の一つを描いた画家のカラバッジョはとんでもない不良だったらしい)といった人間くさい部分も活写されている。スペインは、いわゆるレコンキスタ(1492年のグラナダ陥落による終了)後を主として記述しているが、セルバンティス、ゴヤ、ガウディという有名人達が取り上げられている。歴史におけるその時代の意味がよくわかり、高校時代にこのシリーズを読んでいれば世界史が好きになったかもしれないと思う。
今ロシアに侵略されているウクライナの歴史も非常に興味深いので、少し紹介する。ウクライナはギリシャ時代からスキタイ人が支配する地域としてギリシャ世界(西洋というイメージか)に知られており、その後にキエフ・ルーシーという国がつくられた。「ルーシー」は「ロシア」に転化したといわれているが、「キエフ・ルーシー国」があったときは単なる「ルーシー」であったものが、ロシアと区別するために「キエフを都とするルーシー」という意味で「キエフ・ルーシー」と呼ばれている。この国はヨーロッパの大国であったが、モンゴル人(ロシアではタタール人と呼ばれた)の征服(キプチャク汗国の建設)、その衰退の後、リトアニア・ポーランドの支配を経て、コサックが中心勢力となった。コサックは、キエフ・ルーシーの衰退後の社会的混乱時期に肥沃なウクライナに集まった者が自衛のために武装組織をつくったようである。コサックには「自由の民」という意味があり、何やら現在の状況について暗示的である。このコサック国家が衰退した後はロシア、オーストリア両帝国の支配に入るが、困窮したウクライナ人は1880年代から新大陸に移民するようになり、アメリカでは150万人、カナダでは100万人の移民がいるといわれている。ソ連時代、第二次世界大戦、ソビエト崩壊を経て現在のウクライナとなったが、その間には領土は変転しており、最近ニュースでよくでるリヴィウはポーランド領だったこともある。ウクライナの現地からの報道を見ていると英語が堪能な人が少なくないことに驚いていたが、それも歴史的な理由があることがわかる。また、ウクライナ人がロシア人と違うアイデンティテイを持ち、独立のために必死で戦うのも必然的なものであることもわかる。
よりメジャー(といっていいかは別だが)なイギリス、フランス、ドイツもこのシリーズにはあり、これから読んでいこうと思っているが、岩波新書から出版されている「○○史10講」シリーズというのがありイギリス、フランス、ドイツについてはこのシリーズで読んだ。このシリーズも各章でテーマを決めてメリハリのついた記述をしており読みやすい本であるが、200頁程度であることから少し手軽に楽しむ本という印象である。
コロナ禍の下で海外旅行が制限されており、またロシアの侵略戦争により世界情勢は混沌とし始めているが、一度はその場所を訪れてみたいと想像しながら各国の歴史を学び、鑑賞し、愛でていきたいと思う。