2024年08月01日

私たちのころは、ロースクールがなく、ごく一般的には、法学部で学び、人によっては濃淡有れども司法試験予備校を適宜利用し、複数回、司法試験にチャレンジして、合格したら、司法修習(私は51期生。52期生までが2年間)を受け、その後、司法研修所の修了試験を経て、弁護士登録する、勤務先で仕事を覚えて、3年から5年程度で独立するか、事務所のパートナー弁護士になるのが一般的でした。

今は大学院としてのロースクール(2年間または3年間)があって、原則的には、ロースクール修了をもって、司法試験受験の資格を経て、司法試験を受験、合格したら、1年間の司法修習を経て、弁護士登録をすることになります。
ロースクールを経ずに「予備試験」に合格して、司法試験を受験する選択肢もあり、本来「バイパス」と言われていた予備試験の出身者の割合が多くなってきています。
ロースクールの学費負担など経済的な事情もさることながら、できることならば早く法律家になりたいというニーズを無視することも難しい。
近時では3年間で早期卒業できる法学部もあり、更にロースクール在学中でも、すなわち、最終年度(法学既修者コースなら2年目)に司法試験を受験でき、合格後、ロースクールを修了すれば、司法修習に進めることになっています。

ところで、弁護士は、ある程度の法律知識を備えていることを前提に、それを事実に当てはめて、見通しを立て、その見通しに向かって、交渉や訴訟などを使って、事案を解決していくことが求められます。

法学部生は、講義やゼミ、その他、人によっては法律相談部などの法律系サークルで、法律の手ほどきを受けます。
教科書を読んだり、先生・先輩の話を聞いたり、時に議論したりして、基礎的な知識の習得を目指しますが、実社会の経験がないのが大半なので、頭では理解できたとしても、実感として血肉になって理解するのは、なかなか難しいところです。

法学部では、専門科目の履修が本格化するのは3年生からなので、4年間(または3年間)だけで法律が「分かった」といえるようになるのもなかなか難しいです。
もちろん、その段階で予備試験に合格して、その翌年、司法試験に合格するという人もいますが、かなりの難関です。
したがって、ロースクールに進んで、法律の理解を深化させることには合理性があると思います。
もちろん、法学部出身でなければ、3年間、みっちり法律をロースクールで学ぶ(未修者コース)ことになり、それ程度の年数は一般的には必要だと思います。

そうして努力して勉強を続けていると、憲法、民法、刑法、商法、民訴法、刑訴法、そのほか例えば破産法、労働法その他の選択科目の全体像が見えてきて、うまくいけば、司法試験の問題は解けるようになります。
もちろんそこまでが一苦労なのですが。
したがって、司法試験合格は、法律の素養があることの保証であるとは言えるでしょう。

もっとも、法学部やロースクールでほとんど学ばないことの典型として、「事実認定」という問題があります。
これらの学修段階では、法律を当てはめて検討すべき事実関係は、所与のものとして前提となっていますが、弁護士は、依頼者や関係者から話を聞き、証拠と照らし合わせながら、あるいは経験則(もしくは常識)にしたがいながら、事実を認定していかなければなりません。
これは、司法研修所で教材としての事件記録で手ほどきを受け、あとは実務修習中に「生(なま)の事件」で指導弁護士たちから指導を受けつつ、会得していくことになります。
なお、司法修習は、司法研修所での座学のほか、裁判所、検察庁、法律事務所での実務修習があります。
それらを経て、裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを決めるというのが建前ですが、特に近時では、少なくとも司法修習に入る段階である程度志望を固めているのが一般的だと思います。

司法修習を経て、弁護士登録すれば、もちろん独立して仕事ができます。
ただ、法律を駆使して事件を解決できるようになるには、民法一つとっても、事件を経験して、その都度、法律の条文や裁判例の意図するところは何かを見極めて、解決策を考えていって、少しずつ熟練していく面があります。
また、依頼者や相手方との接し方、対応の仕方は机上では学べないので、自分自身が事件を通して試行錯誤を重ね、先輩弁護士から指導を受けたり、そのやり方を盗んだりしながら、会得していくよりほかありません。
このことは、自身が自覚してアンテナを張っている限りは、どれだけ経験年数を重ねても変わりません。私も事件の解決について悩んだとき、事務所の先輩や、時には弁護士会でお世話になった先輩に相談したりすることが今もあります。
ところで、そういうときに受けるアドバイスは、驚くほどオーソドックスなことが多いです。
事実をあるがままに見て、シンプルに物事を見極めることは思いのほか難しいのでしょう。
その判断によって現状を変えなければならないときは、勇気も必要なのかもしれません。

経験値を多くするには事件だけでなく、人のつながりで、異業種交流団体や同窓会、PTAなどで世話役をするのも有効だと思います。
弁護士はややもすると、助言者、批判家に留まってしまうおそれがあります。実際の課題を目の前に執行者・当事者として悩みながら、選択をしていく感覚は弁護士としても大事です。
もちろん弁護士も事務所の経営という点では執行者ですが、外部とのかかわりが必要なように思います。
執行者という意味では弁護士会の役員や委員長・副委員長をするのも得難い経験であり、私自身の実感でもあります。目には見えませんが、弁護士としての血肉になっています。