建設業者や宅地建物取引業者に対し、住宅建設や販売の瑕疵(かし)担保責任を履行するための保証金供託または責任保険への加入を義務付ける「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」が2007年5月30日に公布されています。これを略して「特定住宅瑕疵担保履行法」と呼ぶようです。全体としてはすでに2008年4月1日から施行されていますが、法律の本体というべき、保証金供託または責任保険への加入の義務付けは2009年10月1日からとされています。
住宅の新築工事の請負契約では、請負人は注文者に引き渡した時から10年間、基礎・壁・柱など構造耐力上主要な部分や、屋根の仕上げなど雨水の浸入を防止する部分の瑕疵(欠陥のこと)について瑕疵担保責任を負います。つまり、注文者は請負人に対し、その瑕疵の補修を請求することができます。補修請求に代えて、または、これと共に損害賠償請求することができます。
また、新築住宅の売買契約では、売主は買主に引き渡した時から10年間、同じく構造耐力上主要な部分等に、契約時には気付くことのできなかった瑕疵があれば、その点について瑕疵担保責任を負います。つまり、買主は売主に対し、その瑕疵によって契約目的が達成できなければ契約を解除することができます。また、瑕疵補修や損害賠償も請求できます。
これらのことは「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(住宅品質確保法)に定められています。
今回ご説明する「特定住宅瑕疵担保履行法」は、建設業者や宅地建物取引業者が、このような瑕疵担保責任をいざ負うこととなった場合に備え、その責任を果たす(履行する)だけの資力を確保しておくための法律です。いわゆる構造計算偽装問題でマンションの売主が倒産したため被害者が十分な救済が受けられなかったことがきっかけとなりました。「特定住宅瑕疵担保」とわざわざ「特定」なる文言が付されているのは、ここでいう瑕疵担保が、住宅品質確保法に定めるそれを指すからです。
建設業者、つまり建設業の許可を受けて建設業を営む者は、毎年3月31日と9月30日に、これら基準日前10年間に住宅新築工事の請負契約に基づいて引き渡した新築住宅について、一定の保証金を法務局に供託しなければなりません。この保証金を「住宅建設瑕疵担保保証金」といいます。
その保証金の額は、(毎年3月と9月の)基準日前10年間に引き渡した新築住宅の戸数の合計によって決まります(なお、床面積合計が55平方メートル以下の小規模住宅は2戸で1戸とされます。)。例えば、1戸で2000万円、10戸で3800万円、100戸で1億円、1000戸で1億8000万円となります。ただし、基準日前10年間というのは、施行日である2009年10月1日以降で、かつ、基準日前10年間のことです。2009年以降、保証金算定の基礎となる新築住宅の戸数は徐々に積み上がり、実際に10年間分となるのは2019年10月1日以降ということになります。
瑕疵ある新築住宅の注文者は、建設業者に対して裁判で勝訴した場合や、その建設業者が倒産した場合などに、供託された保証金から優先的に弁済を受けることができます。
建設業者は保証金を供託する代わりに、国土交通大臣が指定する「住宅瑕疵担保責任保険法人」との間で、「住宅建設瑕疵担保責任保険契約」を締結してもよいこととなっています。このような法人として現在4法人が指定されています。
いざ瑕疵があって、建設業者がその担保責任を履行した場合(損害賠償をした場合など)は、その損害の補てんのため、約80%の保険金を請求することができます。建設業者が責任を履行しない場合は、注文者が保険金を請求することができます。
実際のところは、保証金供託よりも、この責任保険に加入する例が圧倒的に多くなるのではないかと予想します。
他方、宅地建物取引業者も、毎年3月31日と9月30日に、これら基準日前10年間に自らが売主の売買契約に基づいて引き渡した新築住宅について、一定の保証金を法務局に供託しなければなりません。この保証金を「住宅販売瑕疵担保保証金」といいます。その保証金の額、瑕疵ある新築住宅の買主の権利は「住宅建設瑕疵担保保証金」の場合と同様です。
宅地建物取引業者も保証金供託の代わりに、「住宅瑕疵担保責任保険法人」との間で、「住宅販売瑕疵担保責任保険契約」を締結してもよいことになっています。いざ瑕疵があった場合の取り扱いも、「住宅建設瑕疵担保責任保険契約」の場合と同様です。
特に注意すべきことがあります。それは、建設業者や宅地建物取引業者が、供託や責任保険締結の状況について国土交通大臣か都道府県知事に届け出ることが義務付けられているところ、この届出をしていなければ、毎年の基準日の翌日から50日を経過した日以後は、新たに住宅の新築工事の請負契約や、新築住宅の売買契約を締結できないということです。これに違反すれば、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金(またはこれらを併科)の刑罰があります。供託の不足額を供託するなどすればその制限は解かれます。
2009年10月1日以後の新築住宅は保証金供託や保険加入義務付けの基となるわけですが、その基準は契約日ではなく引渡日です。したがって、引渡日が同日を過ぎることが予想される場合は、事前にこれら資力確保の措置を取っていなければならないということになります。