借地上の建物の抵当権者がとるべき対応

<ポイント>
◆借地上の建物の抵当権者は土地の賃料額に注意すること
◆借地人の賃料不払を地主から通知させること

債権回収のために債務者の建物に抵当権を設定させても、建物がなくなると抵当権は消滅します。
建物がなくなるとは、自然災害により建物が崩壊する場合だけでなく、借地契約が地主によって解除されたことにより借地上の建物を取り壊さざるを得なくなった場合も含まれます。
そうすると、借地上の建物の抵当権者にとっては、借地人(兼建物所有者)の賃料不払により借地契約が解除されることを防ぐことが重要といえます。
そこで、借地人が賃料不払に陥っている場合に借地上の建物の抵当権者がとるべき対応について述べたいと思います。

抵当権者は、抵当権実行手続の開始前は、賃料を代払いすることにより借地契約が解除されることを防ぐことができます。その上で抵当権者は賃料を代払いしつつ建物の売却先を斡旋してその売却代金から自らの債権を回収することが考えられます。
抵当権者が抵当権実行手続の開始後に賃料を代払いするためには裁判所の許可が必要です。
もっとも、抵当権者が借地人から賃料の代払い分を回収することは、その時の借地人の資産状況からいって難しいでしょうから、借地上の建物に抵当権を設定させる際は、土地の賃料額に注意する必要があります。

そして借地人の賃料不払を速やかに把握できるように、抵当権者は「借地契約の解除前に抵当権者に通知する」よう地主に約束させることが望ましいです。
地主が約束したにもかかわらず、抵当権者に借地人の賃料不払を通知せずに借地契約を解除し、借地人が建物を取り壊さざるを得なくなった場合は、抵当権者は地主に対して損害賠償請求することが考えられます。その損害額は、「抵当権により把握していた担保価値」から「担保価値を維持するための代払賃料」を差し引いた額となります。後者は、物件売却に要する期間分の賃料額ということになります。

売掛金3000万円の担保として、取引先が借地上に有している建物(評価額2000万円)に抵当権を設定させたという事例では、抵当権により把握されている担保価値は物件評価額である2000万円になります。
借地の賃料が月額40万円、物件売却にかかる期間が6か月間だと仮定すると、抵当権者が担保価値を維持するために代払いする必要がある金額は240万円となります。
この場合、地主が抵当権者に通知せずに借地契約を解除したことにより抵当権者が賠償請求できる額は、2000万円から240万円を差し引いた1760万円ということになります。
ここでは物件売却に要する期間を6か月と仮定しましたが、具体的には物件の状態、立地条件や市況などにより異なってきます。

なお、判例では、地主に通知義務を負わせるにあたって抵当権者から地主への対価の支払がないこと、地主が念書の内容について抵当権者から充分な説明を受けていなかったこと、抵当権者が念書の控えを地主に交付しなかったこと等を理由に過失相殺していますので注意が必要です。