<ポイント>
◆公取委の相談事例集(平成23年)からの参考事例
◆通信販売禁止が再販売価格の拘束の手段として使われる場合も
◆適切な販売のための合理的な理由が説明できるか
公正取引委員会は7月4日、「独占禁止法に関する相談事例集(平成23年度)」を公表しました。
公取委は企業等から具体的事例の独占禁止法上の問題について事前の相談を受け付け、回答しています。
これら相談事案のうち他の企業の参考となるものは相談事例集として公表されています。
このたびの事例集では商品のインターネット販売に関連する二つの事例があげられています。
一つは医療機器メーカーが取引先に対し、自社製品につきインターネットなどでの通信販売を禁止することが、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例です。
もう一つは医薬品メーカーが取引先に対し、自社製品について商品説明を対面で行うよう義務付ける(結果的に通信販売はできない)ことが、独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例です。
類似する事案についてどうして公取委の回答が分かれたのでしょうか。
前者の事案において、医療機器メーカーA社はある医療機器の販売市場においてシェア5%(7位)です。
A社は取引先を通じ消費者にその医療機器を販売しています。その医療機器は人体に装着して使用するものですが、その販売方法について特段の規制がないので、最近ではインターネットなどで販売されることも増えてきています。
ところで、この医療機器は体の状態を実際に測定して設定を修正し、使用後もさらに微調整を要するものです。これら調整がなされないと性能が十分に発揮できないので、通信販売は製品の信頼低下につながるとA社は考えました。調整は消費者自身では難しいとのことです。
そこでA社は取引先がその医療機器の通信販売を行っていれば(あるいは通信販売業者に販売していれば)、その取引先に通信販売を止めるよう求め、応じなければ出荷停止とするという取り組みを検討し、公取委に事前相談しました。
メーカーが小売業者に対して販売方法を制限することは、商品の安全性確保、品質の保持、商標の信用維持など合理的な理由があり、かつ、他の取引先にも同等の条件が課せられていれば、それ自体は独占禁止法上、問題とならないと公取委はしています。
他方で、その販売方法の制限を「手段にして」、販売価格、ライバル商品の取扱、販売地域、取引先等を制限すれば、それは独占禁止法上の「再販売価格の拘束」、「排他条件付取引」、「拘束条件付取引」の観点から違法性の有無についての判断が必要となります。
公取委はA社が取引先に対し、その医療機器のうち通信販売では不可能な調整を必要とするものについて通信販売を禁止することは、独占禁止法上の問題とならないとしました。その理由は以下のような点にあります。
(1)医療機器が調整せずに使用すれば性能が十分に発揮できないが、その調整は通信販売ではできないこと。
(2)全ての取引先について同等の制限が課されること。
(3)店舗販売を行う業者にも、メーカー希望小売価格よりかなりの低価格で販売する者もいるため、通信販売の禁止が販売価格の制限を行うものとは考えられないこと。
すなわち通信販売を禁止することに合理的な理由があり、これを隠れ蓑に販売価格を制限するようなものでない、という判断です。
もう一方の事例は医薬品メーカーB社による対面での販売の義務付けです。B社は、ある医薬品の販売市場でのシェア90%(1位)です。
B社はその医薬品を薬局等の取引先を通じ消費者に販売しています。この医薬品はリスクが比較的低い第三類医薬品であり、法令上は販売時の積極的な情報提供の必要はなく、通信販売も禁止されていません。B社はその医薬品の特徴をよく理解せず、本来得られる効果を得ないままに服用をやめてしまうと、消費者からの信用低下につながると考えました。そこで、取引先に対し、販売時の積極的な商品説明やアフターサービスを「対面で」行うよう義務付ける契約の締結を考え、公取委に事前相談しました。
これに対する独占禁止法上の基本的な考え方は前述と同じながら、公取委は、このB社の医薬品に関するケースでは、対面での説明等を義務付けることは独占禁止法上、問題となるおそれがあると判断しました。その理由は以下のような点にあります。
(1)この医薬品の商品説明は通信販売でもできる。
(2)店舗販売において積極的な商品説明等をしなかったとしても、その医薬品の出荷を停止するつもりはないとB社が考えていること。
(3)現に行われている通信販売でこの医薬品がかなりの低価格で売られていることからすれば、対面での説明を義務付けることは、これを手段に販売価格の制限を行うことになる可能性が高いこと。
両者の結論の主な違いは、取引先に対する販売方法の制限(通信販売禁止、対面説明の義務付け)がその商品の性能、効能を発揮するために必要と考えられるか否かにあったといえます。つまり、公取委はA社のケースについては、その医療機器の機能を発揮するために、通信販売を禁止する必要性はある、と認めたのに対し、B社のケースではその医薬品が効能を発揮するために、対面での説明を義務付ける必要性は認められないと判断したといえます。後者のケースでは、対面での説明を積極的にしない店舗販売の取引先には出荷停止を求めないというのですから、対面説明の義務を守らない取引先のなかでも対応を異にしており、結局のところ、対面での説明義務付けは、効能発揮のために必要であるという論理は成り立たない、と判断したと思われます。
商品がインターネット上で販売されると、価格の比較が極めて簡単なため、競争の結果値段が下がりやすい傾向にあります。そうしたなか、インターネットでの販売を禁止することについて価格制限とは異なる合理的な理由が論理的に説明できるか否かがポイントです。