公正取引委員会はソフトバンクモバイルが行った「ケータイの通話料を0円、メール代も0円にします。」などの広告が景品表示法違反(有利誤認表示)のおそれがあるとして、12月12日同社に対し「警告」すると共に、KDDI(au)、NTTドコモに対しては「違反につながるおそれがある」広告を行ったとして「注意」しました。
同日付け日経新聞夕刊では「番号継続制度が始まってどの会社を選ぶか消費者の関心が高まる中、『有利さ』のみを強調し誤解を招きかねない各社の営業姿勢に厳しく臨む姿勢を示した。」とコメントされています。
さて、今回の「警告」ないし「注意」の根拠となったのは「景品表示法違反(有利誤認表示)」のおそれですが、これは、どのようなルールに違反するおそれがあったということでしょうか。
景品表示法はその正式名称を「不当な景品類及び不当表示防止法」といいます。文字どおり「不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため」の法律です。「不当景品類防止」と「不当表示防止」は景品表示法(さらに縮めて景表法)の2本柱ですが、今回の事件で問題となるのは後者です。
そもそも、この法律は「独占禁止法の特例」として定められました。独禁法が禁止する「不公正な取引方法」の一つに「不当な顧客誘引」があります。他社と競争する上で顧客に対し自社の商品やサービスを選ぶよう誘い入れることは当然のことです(携帯電話の番号継続制度がスタートして、各社が自社に顧客を引き入れようとしているのはまさしくそのような状況です)。
しかし、その手段が不当であれば顧客は合理的な選択ができなくなります。
そのため独禁法は「不当な顧客誘引」を禁止しています。
何が「不当な顧客誘引」に該当するかにつき、公取委はその一類型として「ぎまん的顧客誘引」を指定しています。すなわち、自社の商品やサービスについて、実際のものやライバル社のものよりも著しく優良であるとか、有利であると顧客に誤認させることで不当に顧客を誘い入れることです。
ところで、景表法は、そのような行為のうち、一般消費者向けの「表示」がある場合についてのみ適用されるという意味で「独禁法の特例」です。ここでいう表示には容器、包装における表示のみならず、広告も当然含まれます。
どうして一般消費者向けの場合について特例を定めたかというと、一般消費者向けの表示は、波及しやすいものですし、影響を及ぼしやすく、かつ被害を事後的に全て回復するのはほとんど無理という特性があるからです。これに対して景表法は、独禁法上の「排除措置命令」よりは手続きが簡易、迅速な「排除命令」という制度などを定め、その特性に対処しようとしています。
実際のところ「ぎまん的顧客誘引」のほとんどは一般消費者向けなので、そのような表示が問題になったときは、独禁法ではなく、景表法が適用されるケースがほとんどということになります。
さて、景表法が規定する不当表示には、「優良すぎる表示」(優良誤認表示)、「有利すぎる表示」(有利誤認表示)、「その他公取委の指定するもの」の三種類があります。
「優良すぎる表示」(優良誤認表示)としては、商品やサービスの品質、規格などが実際よりも著しく優良であると示し、あるいは、事実に反してライバル社のものよりも著しく優良であると示して不当に顧客を誘引する表示が問題になります。
直近の例では、食品に含まれる大豆イソフラボンの量を実際よりも3倍又は1000倍あるかのように表示したもの、専門学校がその出身者の国家試験合格者数の順位を実際よりも高く表示したものなどが公取委の排除命令を受けています。
今回ソフトバンクモバイルが違反のおそれがあるとして警告を受けたのが「有利すぎる表示」(有利誤認表示)です。これは商品やサービスの価格などが実際のものやライバル社のものよりも著しく有利であると誤認されるために不当に顧客を誘引する表示です。
ソフトバンクモバイルの場合、新聞広告やテレビCMで大々的に「通話料0円、メール代0円」と表示しており、あたかもソフトバンクモバイルの携帯電話サービスを利用する全ての場合に通話料金・メール料金が無料であるかのように表示したと公取委は判断しました。
無料となる前提条件(一定の「プラン」への加入が前提、ソフトバンク携帯間の通話であることなど)、あるいは料金がかかる場合について、新聞広告の場合だと欄外にごく小さな文字でしか表示されず、テレビCMの場合も同様で、一瞬しか表示されないので、読みとるのは不可能なものでした。
他にも、みずほ銀行が住宅ローンの固定金利についてキャンペーン期間中(3月1日~3月31日)に借入を申し込み、6月30日までに借入をすれば優遇金利が適用されると店頭チラシで表示しながら、実際には借入が4月以降になれば、その金利が適用されないというケースにつき、今年8月同行に対し警告がなされたことが新聞報道されています。
このような「優良すぎる表示」や「有利すぎる表示」があった場合、一般消費者はどの商品・サービスがお得なのか合理的な判断ができなくなるので、「公正な競争」という観点からは問題だということです。
なお、今回ソフトバンクモバイルには「警告」が、KDDI、NTTドコモには「注意」がなされました。
公取委が独禁法違反(景表法違反も含みます)の疑いがあるとして審査してきた場合に、違反が認定できれば排除措置命令(景表法違反の場合は排除命令)などの法的措置を取ります。
これに対し、違反は認定できなかったが、その疑いがあるときに事業者に対して是正措置を採るように指導するのが「警告」であり、違反につながるおそれのある行為がみられた場合に未然防止を図る観点から行われるのが「注意」であるとされています。
今回のケースも違反とまでは言えないが、問題があるケースとして警告、注意が行われたと考えられます。
ちなみに、優良誤認表示、有利誤認表示の場合、「公正な競争を害するおそれ」があることが要件となっています。そこまで悪質とまでは言えないとの判断があったのかもしれません。
ただし、公取委はソフトバンクの広告がより問題があると判断したということでしょう。
熾烈な競争の中、他社よりも抜きんでようとするが余り、広告などが一般消費者に誤解を与えるものになっては法的なペナルティがあるということに気をつける必要があります。