日立製作所の子会社日立アプライアンスに対し公正取引委員会は4月20日、同社が販売する電機冷蔵庫に関するカタログ、ウェブサイト等の表示に不当表示があったとして、不当表示の使用差し止め等を命ずる排除命令を出しました。
日立アプライアンスは冷蔵庫に関する2008年冬カタログや同時期のウェブサイトで「日立は業界ではじめて、リサイクル材を活用した真空断熱材の採用を始めました」、「使用済み冷蔵庫の棚などの樹脂材料を極細繊維化し、真空断熱材の芯材として活用。省資源化とともに製造工程でのCO2排出量削減を実現しました。」、「真空断熱材製造工程でCO2排出量 約48%削減」などと表示していました。
ところが、実際は、リサイクルした樹脂は使用しておらず(ある期間・ある機種については50%だけ使用)、製造工程におけるCO2の削減量も48%を大きく下回っていたとのことです。
公正取引委員会は同社に対し、このような表示が景品表示法4条1項1号に規定する優良誤認表示に該当するとして、(1)その表示が優良誤認表示に該当するとの一般消費者に新聞等で公示すること、(2)同様の表示を防止するための措置を講じ、社内に周知徹底すること、(3)この冷蔵庫や同種商品について同様の表示をしないこと、(4)(1)・(2)の措置について公取委に文書で報告すること、を命じました。
この排除命令に従う限りは罰則の適用はありません。
なお、不当表示について売上金の3%の課徴金を課すとの景品表示法改正法案(独禁法改正法案とワンセット)が2008年3月に国会に提出されましたが、その後廃案となり、今般2月の独禁法改正法案提出には含まれていませんでした。とはいえ、景品表示法に関する事務は今後発足する消費者庁へ移管されることになり、課徴金に関する議論は今後もなされると考えます。
今回の排除命令を受け、日立アプライアンスはニュースリリースで次のように述べています。
「今回、当該カタログ及びウェブサイト、新聞広告、ポスターの表示により、お客様に誤解を与えましたことは、大変申し訳なく、深くお詫び申し上げます。これら表示については、早急に訂正、改善を図ってまいります。」「当社は、今回の『排除命令』を重く受け止め、今後このようなことが起こらないよう、カタログ等の確認体制及びコンプライアンス体制を強化することで、お客様に分かりやすい表示をするよう努めてまいります。」
この内容については違和感を覚えます。揚げ足取りかもしれませんが、「お客様に誤解を与えましたこと」とありますが、本件は故意か過失かはともかく真実でない情報を示していたわけですから、「誤解を与えた」というのは本質を外しているでしょう。誤解を与えたというのは「真実の内容がありながら、その表現方法のまずさ(場合によっては受けての認識不足)によって、誤った認識をさせた」ということです。
優良誤認表示は「実際のものよりも著しく優良であると示す」か「事実に反してライバル社のものよりも著しく優良であると示す」ものです。そのような表示によって、顧客を誘引することに取引の不当性があるわけです。誤解を招いたとの反省は法の趣旨が理解されていないもので、かえって対応のまずさ・不誠実さを感じてしまいます。
また、今後についても「分かりやすい表示をするよう努めてまいります。」とありますが、これも本質からずれています。今回の排除命令は「表現が分かりにくいから分かりやすいようにしなさい」といっているのではありません。「実際のものよりも著しく優良であると示す表現はやめなさい」といっているのです。
環境問題への対応を重視する昨今の取引(家電業界では特にそうでしょう)において、その点に関する情報をゆがめてしまえば、公正な取引がなされたとはいえません。
コンプライアンス(法令遵守)体制整備との観点からは、それに反する事態が起こったとき、あるいは発覚したときには、現にある情報からその問題を分析して的確な判断をし、必要な措置を講じ、場合により外部へ報告ないし公表することが必要です。そういった点から、同社の姿勢はコンプライアンスを形式的にのみとらえているような感想をいだきます。
報道によりますと、リサイクル材の活用が技術的に間に合わないことについて開発設計部門から宣伝部門への伝達が不十分であった、カタログのチェックができていなかったと同社は説明していたとのことです。
伝わっていなかったというのも問題を矮小化していると考えます。当該電気冷蔵庫の部品にリサイクル材が使われていないことは誰かが知っていたはずです。にもかかわらずその優位性が大々的に宣伝され、ヒット商品になっていたわけですから、そうなる前にその問題性を会社として認識する必要があったはずです。公正な取引を確保することと業績を伸ばすことが緊張関係を持つのは通常よくあることです。
社内の適切な体制(社内相談窓口や外部弁護士への内部通報システムもその一例)が整備され機能していれば、問題の芽が早い段階で認識され、今回のような事態に陥り、信用を落とすこともなかったといえます。
会社に不当表示に対する積極的な意図がなかったとしても、だから問題がないとか小さいとかいうのではなく、その問題性を社内で直視・分析して、今後の対策に生かされることが強く望まれます。