<ポイント>
◆独占禁止法改正後、初の適用事例
◆「優越的地位」にあることが違法性の根拠
優越的地位の濫用につき公正取引委員会は6月22日、初の課徴金納付命令を出しました。
岡山県などにスーパー「マルナカ」を出店する山陽マルナカに対し公取委が納付を命じた課徴金は2億2216万円です。
「不公正な取引方法」の一つとして従来より独占禁止法が禁止していた「優越的地位の濫用」は、平成21年の独禁法改正により新たに課徴金が課される対象となりました。
同改正は昨年1月1日より施行されましたが、このケースが初の適用事例となりました。
公取委が優越的地位の濫用と認定した山陽マルナカ(以下、単に「マルナカ」とします。)の行為(平成19年1月~)は概ね次のとおりです。
(1)自社店舗の新規開店、全面改装等に際し、納入業者に、その業者のもの以外の商品を含む商品について移動、陳列、補充、接客等の作業を行わせるため、従業員を派遣させた。マルナカは人件費等の費用を負担しなかった。
(2)新規開店の宣伝費や、自社主催の「子ども将棋大会」や「レディーステニス大会」の実施費用を確保するため、納入業者に目標額を設定して金銭を提供させた。
(3)自社独自の販売期間を過ぎた食品について、その納入業者に返品していた。返品の条件について購入時に合意したり、当該納入業者から返品の申出があったりしたこともない。
(4)季節商品である食品の入替え等を理由に割引販売を行うこととし、仕入価格の50%相当額などを当該納入業者に支払うべき代金から減額した。
(5)納入業者との懇親会などで、最低購入数量を示すなどしてクリスマス関連商品を納入業者に購入させた。
その結果、マルナカは140社に対し延べ約4200人の従業員を派遣させ、130社に対し総額約3200万円の金銭を提供させ、20社に対し総額約410万円の代金減額を行いました。
このような行為は納入業者が自主的に判断すれば、拒否してしかるべきことがらです。
ところが、公取委は、
(1)マルナカは岡山県に本店を置く百貨店・スーパーの中で最大手の事業者であり、岡山県における食品小売業の売上高に占める、同社の売上高は小売業者の中で最も高い。
(2)納入業者は今後マルナカとの取引額の増加を期待するものが多く、マルナカが大口の取引先で、他の事業者との取引を開始・拡大させてもマルナカと同程度の売上を確保するのが難しい者も多い。
などの事情から、マルナカとの取引が続かなければ納入業者には経営上大きな支障があり、マルナカからの種々の要請を受け入れざるを得ない立場にあったと判断しました。つまり、マルナカは納入業者との間で優越的な地位にあると判断したのです。
このような「優越的な地位の濫用」は、相手方(納入業者)の自由で自主的な判断による取引を邪魔し、当該業者をライバル社との関係で競争上不利にさせます。反面、行為者(マルナカ)にとってはライバルとの関係で競争上有利となります。これでは「公正な競争」ができなくなるおそれがあるため、独占禁止法が禁止しています。
2億2千万円もの高額の課徴金は取引先ではなく国に納められます。課徴金は、違反行為によってマルナカが不当に得た利益を国がはく奪することで、公正さを図り、他方で、違反行為を抑止するのがその制度趣旨です。
優越的地位の濫用の場合、違反行為期間中(最長3年間)の取引先との取引額(複数あれば合計額)の1%が課徴金として課されます。本件の場合、改正法が施行された平成22年1月以後の購入額が計算対象になっているようです。
なお、課徴金は優越的地位の濫用のみならず、不当な取引制限(カルテル・談合)はもちろん、私的独占、共同の取引拒絶、差別対価による供給、不当廉売、再販売価格の拘束にも課されます。高額の課徴金は経営上の打撃となります。具体的にどのような取引形態を独禁法が禁じ、課徴金を課しているのか通じておく必要があります。
優越的地位に対し劣位にある企業からすれば、法律に通じていることは取引上の有効な交渉材料となるでしょう。