インサイダー取引規制違反の現状と適用除外規定の追加
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<ポイント>
◆インサイダー取引規制違反件数は依然として高水準
◆「知る前契約・計画」に関して適用除外される場合が増加

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2015年(平成27年)8月に公表しました。
この課徴金事例集によると、平成26年度(平成26年4月から平成27年3月)にインサイダー取引があったとして31件、合計3882万円の課徴金納付命令勧告があり、平成27年度は2ヶ月が経過した時点(平成25年4月から平成26年5月)の数値ですが、同じく2件、合計482万円の同勧告があったとのことです。
金額では昨年より減っていますが、件数はほぼ同じであり依然として高水準にあるといえます(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」 (2011年10月1日掲載)をご参照下さい。)

なお、事例集の対象となっていない6月以降では10月末までで8件、合計1446万円の課徴金納付命令勧告がされています。

今回の課徴金事例集では公開買い付けを重要事実とするものが件数の約3分の2を占めています。
また違反行為者としては会社関係者などから重要事実の伝達を受けた第一次情報受領者が約8割を占めており、安易な情報の漏えいが多かったものといえます。
公開買い付けを重要事実とする事案以外では、売上高や配当金についての業績予想等の修正を重要事実とする事例が5例あり、いずれも業績予想等を行う会社の役員や従業員が、また、役職員から情報を受領した者による取引となっています。
それらの会社では、自社株売買の申請制度が定められていない、申請制度はあっても事後届け出で足りる、事前届け出を怠った場合の罰則が定められていないなどの内部取引に係る規程の不備、情報漏えい防止の規定がないことや社内研修が怠られていたことなどが指摘されています。
業績予想等の修正はどんな会社でも起こりうることであり、あらためて内部取引に関わる規程の見直しや社内研修が十分かを確認する必要があります。
なお、今年10月には平成25年金商法改正で新たに規定された「不正な情報伝達・取引推奨」による課徴金納付命令もされています。

このようにインサイダー取引規制は厳しく取り締まられている一方で、「有価証券取引等の規制に関する内閣府令」の一部改正が行われ、重要事実を知る前に締結された書面による契約の履行又は計画の実行(いわゆる「知る前契約・計画」)に関するインサイダー取引規制の適用除外規定に、包括的な適用除外規定が追加されました。
これは、金融審議会金融分科会の「インサイダー取引規制に関するワーキング・ブループが平成24年12月に発表した報告書で未公表の重要事実を知った者が行う売買等であっても、重要事実を知ったことと無関係に行われる売買等であることが明らかな場合にはインサイダー取引規制の適用外とすることが適当である旨の提言に対応するものです。
「知る前契約・計画」については、本改正前も売買等の対象である株式を発行する上場会社との取引や持株会を通しての取得などの場合に一定の条件の下にインサイダー取引規制の適用が除外されていましたが、今回の改正ではその要件が緩和されたといえます。
本改正により「知る前契約・計画」がインサイダー取引規制の適用除外となるためには、契約または計画が行われた日を客観的に証拠づけるための措置として確定日付を付すことなど3つの要件のどれかを満たすことが必要です。
さらに、売買等の別、銘柄及び期日ならびに期日における売買等の総額または数が、契約もしくは計画において特定されていること、または契約もしくは計画においてあらかじめ定められた裁量の余地がない方式により決定されることが必要です。
インサイダー取引規制の適用除外となる「知る前契約・計画」としての利用が想定できる場合としては、ストック・オプションの行使による株式の取得をする場合、その時点で課税されることがあり、その納税資金として予め株式の売却を契約または計画することが考えられるといわれています。

なお、本改正をうけて東京証券取引所と日本取引所自主規制法人から上場会社の役職員の自社株売買について社内ルールが過剰に厳しいものになっていないかを点検・見直しを促す「上場会社の役職員による自社株売買機械の確保に向けて」が出されています。
上記課徴金事例集に記載された事例と同じ轍は踏まないための規程の見直しと同時に自社株売買が過剰に厳しすぎないかの見直しという正反対の方向での検討が必要であり、専門家を含めた社内における十分な議論が必要です。