<ポイント>
◆「商標的使用」がなければ商標権侵害にはならない
◆商標の機能は誰の商品・サービスなのかを識別させるところにある
◆そうしたブランド識別に無関係な表示であれば「商標的使用」にあたらない
他社の商標を使用しているようにみえるものの商法権侵害にあたらないとされる場合があります。
法律に明記されているところでは商標法26条に規定があります。たとえば、自社商品のために他社の商標を表示するのであっても、それが商品の一般的な名称、産地、品質、原材料などを普通に表示するのにすぎないのであれば、商標法26条1項2号により商標権侵害にあたらないとされます。
商標には「誰が提供する商品・サービスなのか」を識別させる機能があるとされており、自他商品識別機能といわれます。こうした自他商品識別機能をもたない方法での表示であれば、他人のブランドを装うことにはならないので商標権侵害に問わないというのがこの条文の趣旨です。
さらに、必ずしも商標法26条には該当しなくとも、商標が自他商品識別機能をもたない態様で表示されているのであれば、「商標的使用にあたらない」とか「商標として使用されていない」とされて商標権侵害が否定されることがあります。
この考え方を採用する裁判例も複数集積されており、たとえば「タカラ本みりん事件」といわれる東京地裁平成13年1月22日判決があります。
この事件の原告はしょうゆなどを対象商品として「タカラ」の商標登録をしており、被告(宝酒造)が煮魚用調味料に「タカラ本みりん入り」と謳っていることが原告商標の侵害であるとして差止請求、損害賠償請求を行いました。
被告・宝酒造側は「タカラ本みりん」の商標登録をしており、問題の商品のパッケージの中央には大きく「煮魚 お魚つゆ」と表示され、その上部にはやや小さな文字で「クッキングー」「Cookin’Good」といったロゴの表示と「タカラ本みりん入り」という記載があります。(インターネットで検索すると問題のパッケージを見ることができます)
この事件で裁判官は、「タカラ本みりん入り」というのは商品の原材料を説明しているにすぎず、商標法26条1項2号により商標権侵害が否定されるほか、そもそも商標的使用にはあたらないと判断して宝酒造を勝訴させました。
ただし、「タカラ本みりん入り」が単なる原材料の記載にすぎず商標的使用にあたらないという判決理由の読み方には注意も必要です。
たとえば、宝酒造ではなく他社が無断で「タカラ本みりん入り」と表示した調味料を売り出した場合、それは宝酒造の「タカラ本みりん」商標を侵害すると考えるのが自然です。
そうすると「タカラ本みりん入り」という表示は、表示主体が誰なのかによっては、やはり商標的使用の側面も含んでいるということになります。
上記の判決は、原告側の商標よりも被告側の「タカラ本みりん」商標のほうが著名であることや、そうした著名な商標を権利者である宝酒造自身が用いていることを考慮に入れたものということになるでしょう。
判決の捉え方には若干の注意を要するものの、宝酒造側を勝訴させた結論自体には違和感はありません。
対比して参考になりそうな事案が最近ありました。
ロッテリアが「京都黒七味風」と謳った商品(期間限定のポテト)について販売開始の翌月に謝罪広告を出して販売中止しました。その理由は、「黒七味」の商標登録をしている原了郭(京都市)の商品を類推させ誤認につながる可能性があったからというものです。
「黒七味風」という表示が商品の特徴(風味)を説明しているにすぎないとすればタカラ本みりん事件と類似するところがあるという見方になるかもしれません。
しかし、タカラ本みりん事件では宝酒造自身が「タカラ本みりん」の商標登録をしており、その著名性やパッケージの表示全体からして、他社の商標によって消費者を惹きつけようとしているとはいい難い事案でした。
今回のロッテリアの件では、「京都の独特の調味料である黒七味の風味」であることにより消費者を惹きつけようとしていたことは否定しにくいように見受けられます。
また、ロッテリア自身もストレートに「黒七味味」とせずに「~黒七味風」としているところからしても、黒七味が一般的な調味料ではないことが念頭にあったのではないでしょうか。そうだとすれば、調味料やそれによる風味を説明したのにすぎないという主張で争っていくことは簡単ではありません。
ロッテリアが商品の販売を中止したのは致し方ないことであったように思います。