<ポイント>
◆公取委による審判制度には検察官と裁判官を兼ねるとの批判があった
◆公取委の審判制度が改正法により廃止された
◆行政処分の事前の手続保障のため、意見聴取手続が新設された
独占禁止法を執行・実現するための行政機関が、公正取引委員会です。
公取委は、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法といった独禁法違反の事実を認定し、排除措置命令や課徴金納付命令を出すことができます。
公取委がこのような行政処分をするにあたり、平成17年の独禁法改正前は、事前審査型の審判制度を採用していました。
すなわち、公取委は事件の端緒を経て審査を開始し、独禁法違反を認めた場合、まず勧告を行っていました。これに対して、被疑事業者が応諾した場合には勧告審決を出すが、応諾しない場合には公取委において審判が開始し、裁判類似の対審的な手続のなか、証拠によって違反事実を認定し、審決として排除措置命令などの行政処分を行っていました。
そしてその審決に対する不服申立の手続として、裁判所の審決取消訴訟が設けられ、その裁判管轄は東京高等裁判所にありました。公取委の審判手続きを第一審に準じるものとして扱っていたことによるものです。
これに対して、平成17年改正においては、事後審査型の審判制度が採用されました。
すなわち、公取委において審査を開始し、独禁法違反を認めた場合には、被疑事業者のための一定の防御の機会を与えつつ、排除措置命令などの行政処分がなされることとなりました。
この行政処分に対して不服があれば、審査請求がなされ、これにより事後の不服審査としての審判が開始し、審判においては棄却審決、取消・変更審決といった審査請求に対する判断がなされることとなりました。この審決にさらに不服がある場合に、東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起することができるという仕組みが取られていたのはそれまでと変わりはありませんでした。
このような公取委による審判手続きについて、有識者によって構成される政府の諮問機関は、当面維持することが適当であるとしつつ、むしろ、一定の条件が整った段階で、事前審査型の審判方式を改めて採用することが適当との提言が行われていました。行政の過程において十分な適正手続を保障するとともに、紛争の専門的早期解決を図るのが望ましい、という考えによるものです。
しかし、公取委が行った行政処分について、公取委自身が審判をするとの手続には、公取委が検察と裁判官を兼ねているとの批判が経済界を中心になされており、国会においても、平成21年、衆参の委員会において「現行の審判制度を現状のまま存続することや、平成17年改正以前の事前審判制度に戻すことのないよう」抜本的な制度変更を行うとの付帯決議がなされました。
これを受けて、審判制度を廃止する独禁法改正法案が平成22年に国会に提出され、同国会の解散に伴い廃案となった後、平成25年に概ね同じ内容の改正法案が提出され、平成25年12月7に可決成立、平成27年4月1日から施行されています。
このように、公取委が行った排除措置命令、課徴金納付命令については、従前は公取委自身がその不服申立について審判手続で審査していたところ、その審判手続を廃止し、それら行政処分への不服申立は、第1審として、東京地方裁判所が抗告訴訟として審理、裁判されることとなりました。管轄を東京地方裁判所にのみ認めるのは、事件を集中させて裁判所による専門的判断を確保するため、とされています。独禁法違反事件は、複雑な経済事案を対象とし、法律と経済の融合した分野における専門性の高いものであるとの特色を踏まえたものです(だから、これまで公取委による審判手続が委ねられ、一定の拘束力が認められていたともいえますが)。通常の訴訟においては、第1審は単独の裁判官によって審理、裁判が行われるのが原則的形態ですが、この抗告訴訟では、慎重な審理を確保するため、敢えて3人の合議体によることと規定されました(5人の合議体によることも可能としています。)。
そして、第1審判決に不服がある場合は、控訴審として、東京高等裁判所が管轄することとなり、5人の裁判官による合議体によることができるとされています。
なお、従来、公取委が認定した事実については、これを立証する実質的な証拠があるときは、裁判所を拘束するとされ、公取委の判断に一定の拘束力が与えられていたのですが、この規定も廃止されました。また、公取委が審判で正当な理由なく採用しなかった証拠など一定の場合にしか、裁判では新証拠の提出ができなかったとされていた規定も廃止となりました。
そうすると、公取委が行う排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分は、それが公取委としての最終判断になるということになります。そのためには行政機関の判断の適正さを維持しなければならないことから、行政処分前の手続をさらに充実し、透明化することが求められることとなりました。
そのような観点から新たに設けられたのが、行政処分前に行われなければならない「意見聴取手続」です。
意見徴取手続を主宰するのは、公取委が事件ごとに指定する職員です。これを指定職員といいます。公取委は「手続管理官」とも呼んでいます。
指定職員は、事件の審査官等に対し、予定される排除措置命令等の内容や、公取委の認定した事実、法令の適用、主要な証拠を、意見聴取の期日に出頭した当事者に説明させなければなりません。
当事者は意見聴取手続きに当たり、代理人を選任することができます。そして、意見聴取の期日に出頭して、意見を述べ、証拠を提出し、指定職員の許可を得て、審査官等に質問することもできます。期日の出頭に代えて、陳述書や証拠を提出することもできます。
当事者は、意見聴取の通知を受けた時から意見聴取が終結するまでの間、事件について、公取委の認定事実を立証する証拠の閲覧を求めることができます。
ただし、閲覧は、そのうち、自社が提出した物証と自社従業員の供述調書に限り、謄写を求めることができます。
指定職員は、当事者の意見陳述等の経過を記載した調書と、事件の論点を整理した報告書を作成し、公取委に提出します。公取委はその調書、報告書を十分に参酌しなければなりません。
以上が独禁法違反事件の新しい審理手続の概要です。平成27年4月1日以降に、意見聴取期日の事前通知がなされた事件について改正法が適用されることとなります。