<ポイント>
◆法律的な見通しや、社員の状況をよく理解しておくこと
◆極端な事案を除けば合意による退職が望ましい
◆弁護士への相談が必須
以前にも同様のテーマで書いたことがあるのですが、私の経験上、この問題でのご相談が一番多いので、重複する部分もあるかと思いますが、再度、書かせていただきます。(2012年7月15日掲載「問題社員を円満に退社させるには」もご参照下さい。)
問題社員を退社させたいという、ご相談の理由は様々で、営業成績が悪い、人間関係が円滑にいかない、精神疾患の疑いがあるが本人はそれを認めようとしない、私病でうつ病などに罹患したあと休んだり出勤したりを繰り返し職務に支障をきたす、就業規則上の懲戒事由があるなどです。
今回は、特に、性格上の問題があって、他の社員とうまくやっていけないのみならず、その結果、業務の能率が非常に悪いというケースについてどう対処すべきか考えたいと思います。
まず、ご留意いただきたいのは、法律上の大きな枠組みとしては、会社が、従業員を解雇してそれが裁判上も有効であると認められる場合は、かなり極端な場合に限定されるということです。
特に会社側には、従業員に対し教育・指導する責任がありますので、単に問題行動がある、とか、他の社員とうまくいかない、業務の能率が悪いという現状のみをもって解雇することは認められません。
会社として、充分に教育・指導し、その社員のスキルアップをはかり、かつその社員に適切な注意・処分等を行ってなお、改善ができず、企業内にとどめおくことができないという場合にのみ解雇が認められるのです。
しかも、裁判官といえども神様ではないのですから、証拠なしにはそのような事実は認識してもらうことも認定してもらうこともできません。すなわち、このような事情をすべて会社側で裁判において立証しなければならないのです。
以前は、会話を録音するなどの方法をとることも多かったのですが、現在はメールのやりとりであれば比較的容易にその従業員への業務指導などのやりとりを保存し、証拠化することができるので、口頭ではなくメールでのやりとりをすることをおすすめしています。
この時点で気をつけるべきことは、指導する側も注意の結果本当にその社員に問題点を改善してもらおうとすることだと思います。
私の経験上も、会社側が充分に検討したうえで、この業務上の指導に従わなければ解雇も辞さない、という姿勢で業務について改善するよう指示したケースでは、それにより社員の勤務態度が改善し、解雇する必要がなくなったというケースも少なくはありません。
従前の社風や上司の性質などにより、あまり厳しい業務指導をせずに、社員が考え違いをした結果、勤務態度が少しずつ悪くなってしまったため、会社側が解雇したいと思うような状況になってしまったケースなどについては、会社がきちんと業務上の指示を行うことで勤務態度が大幅に改善するケースもあります。
また、証拠上も、むりやり解雇に追い込もうとしてやりとりをしていれば、裁判所にもそのような印象を与えてしまいます。
このような見地から、この時点では、真剣勝負で勤務態度の改善指示を具体的な業務命令の形で行うべきです。
業務命令の形式は先ほど述べたとおりメールでよいのですが、内容についてはやはり弁護士に相談のうえ、就業規則に則った形で行うのが望ましいと言えます。
その結果、どうしても勤務態度が改善せず、2度、3度と懲戒処分を行ってもまだ勤務態度が悪く改善の見込みがない場合は、解雇という手段を再度検討することになります。
しかし、裁判になり、敗訴すれば、解雇してから判決が確定しその社員が職場に復帰する日までの賃金(通常、1年から2年程度分)を支払うことになってしまいますし、仮に勝訴したとしても、勝訴にいたるまで、解雇が有効かどうかについての証拠の整理、弁護士との打ち合わせ、裁判費用などの有形無形の負担が会社にかかってきます。
その一方で、勝訴したところで、その社員の解雇が認められたこと以外に会社が得るものは特にないのです。
以上のように、通常は解雇することはさまざまなリスクが高いため、この段階でもできるかぎり円満退職してもらうことが望ましいと言えます。
例外的に円満退職が望ましくないのは、横領や背任などの懲戒解雇事由が存在し、社内の規律維持のため、懲戒解雇をしてけじめをつけざるを得ない場合に限られます。
円満退職のために行うのが退職勧奨です。
退職勧奨もあまりに執拗に行うことはそれ自体が不法行為となりますが、合理的な理由があって、退職してほしいという意思を伝えるのは違法ではありません。
なお、退職勧奨の際には、解雇が正当とされる証拠を準備してのぞむ必要まではありません。
例えば、会社として、その従業員に与える仕事がないことを伝え、従業員の事情も聞いて、失業保険の支給条件や退職一時金の積み増しなど、会社として対応できることはできる限り対応して、退職の合意を取り付けるように努力するというのが退職勧奨の典型例かと思います。
退職勧奨しても退職の合意に至らなかった場合で、裁判上解雇が認められそうな場合や、あるいは当該社員を在職させることが会社にとって耐えがたい不利益があって少々の金銭の負担をしても退職させたい場合などには、合意による退職が成立しなければ解雇するという決断をする場合もあります。
その場合には、退職勧奨の際に、「あなたのこの行為は、就業規則の第〇条〇項により、普通解雇事由にあたり、〇月〇日までに任意の退職勧奨を受け入れてもらえない場合は、この理由により普通解雇を行います。その場合は退職一時金の積み増しはありません。」などと、退職勧奨に応じなかった場合の見通しについて告知しておいたほうがよいでしょう。
いずれにせよ、従業員を円満に退職させるのは、法律的な見通しをきちんと理解した上で行うことが必要であり、非常にデリケートな案件ですので、経験の有無にかかわらず、必ず事案ごとに弁護士に相談して行うことが必要です。