改正会社法と会社法施行規則案における内部統制制度の整備に注目

<ポイント>
◆子会社に関する内部統制の決議や記載内容の変更の検討が必要
◆監査役担当社員に対する指示の実効性を新たに検討すべき
◆社員等が監査役へ報告するために内部通報制度の整備が必要

平成26年6月20日に会社法が改正されたことに続いて、同年11月25日に会社法施行規則案が法務省より明らかにされました。
改正会社法及び今回の改正会社法施行規則案では業務の適正を確保するための体制として取締役会が決定すべき事項が改正されています。

まず、会社及びその子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制整備を取締役会で決定すべき義務については、会社法で規定されることになりました。
改正前の会社法施行規則では当該会社の親会社と子会社から成る企業集団が対象でしたが、そこから当該会社と子会社からなる企業集団を、いわば抜き出して会社法で規定するように改正したものです。
上場会社と子会社からなる企業集団によるグループ経営が一般的な経営形態となり、持株会社形態も普及していることから、上場会社の株主にとって子会社の適正な運営は非常に重要なものとなってきたためです。
また、これに伴って施行規則案では、4種類の具体的な整備内容が明文化されています。それらは、子会社の取締役等の職務の執行に係る事項の親会社への報告に関する体制、子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制、子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制、子会社の取締役及び職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制です(100条1項5号)。
これらについては、企業集団全体に共通するものとして、すでに取締役会で決議して株主総会招集通知(事業報告)で公表している会社が多いと思います。
ただ、そのような会社でも、子会社について明示された4種類の体制が整備されていることが容易に理解できるような表現とはなっていないこともあります。
改正会社法で企業集団の業務の適正を確保するための必要な体制整備を取締役会で決定すべき義務が会社法上の義務にいわば格上げされましたし、さらに上記4種類の整備内容が明文化されれば、従前の決議内容や株主総会招集通知(事業報告)の記載内容を変更するかどうかを検討する必要があります。

また、施行規則案では、監査役設置会社において監査役の職務を補助すべき使用人に関して、監査役が当該使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項と当該使用人の取締役からの独立性に関する事項を取締役会で決議しなければなりませんでしたが、新たに監査役の当該使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項が追加されています。
これまでは、一般的には、監査役の職務を補助すべき使用人は取締役会から独立した組織とする、人事異動について監査役会の同意が必要とすることなどが決議されてきたものと思います。
しかし、「指示の実効性の確保」となるとより強い権限が監査役に与えられないといけないと思われます。取締役が監査役会の意向に反する人事異動をしたり、独立性を侵害するような指示を当該使用人にした場合に、監査役会が直接に人事に関与する権限や取締役の指示を取り消す権利を有することなども検討する必要があるかもしれません。
また、施行規則案では、取締役や使用人が監査役に報告するための体制として、従来明文化されていた直接に監査役に対して報告する体制に加えて、取締役や使用人から報告を受けた者から監査役に報告する体制も決議することが明文化されています。
さらに、監査役に報告した者がそれを理由として不利な取扱を受けないことを確保するための体制も取締役会で決議することも規定されています。
これらの職務を補助する使用人や報告の体制については、監査等委員会設置会社でも、監査役を監査等委員会に読み替えた上でほぼ同じ規定があります(ただし、監査等委員会設置会社では、「監査等委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人」を置くことが必要との表現になっています)。
これらは、内部通報制度における監査役、監査等委員に対する報告及びそれについての報復の禁止を含むものであり、内部通報制度が整備されている会社においては決議されている会社も多いと思われますが、そうでない会社は内部通報制度の整備もあわせて検討することになるでしょう。
その他、施行規則案では監査役、監査等委員の職務の執行について生じる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項も決議内容となっていることにご留意ください。
なお、内部通報制度の整備については、本メールマガジンの特集号として連載していましたのでご参考にしていただき、必要に応じて当事務所にご相談ください。