インサイダー取引規制違反は依然として増加中
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<ポイント>
◆有名企業の役職員によるインサイダー取引事例も
◆自社にあったインサイダー取引防止の工夫を

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2014年(平成26年)8月に公表しました。
この課徴金事例集によると、平成25年度(平成25年4月から平成26年3月)にインサイダー取引があったとして32件、合計5096万円の課徴金納付命令勧告があり、平成26年度は2ヶ月が経過した時点(平成25年4月から平成26年5月)の数値ですが、同じく7件、合計813万円の同勧告があったとのことです。
平成17年度からの統計の中で、平成25年度は件数では平成21年度の38件につぎ、課徴金額では平成20年度の5916万円につぐものです。このように、インサイダー取引規制違反は依然として増加中であるといえます(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」参照)。
なお、事例集の対象となっていない6月以降では10月10日までで2件、合計278万円の課徴金納付命令勧告がされています。

今回の課徴金事例集でも昨年度に引き続き、取締役や幹部職員によるインサイダー取引が大きな割合を占めています。平成25年度の会社関係者に対する課徴金勧告件数は、平成20年度、平成21年度につぐものです。特に有名な大企業の役職員によるインサイダー取引規制違反が目に付きます。
たとえば、有名住宅メーカーの社員が元有名情報関連事業グループの不動産会社と業務提携をすることとそれに伴い業務提携先の不動産会社が第三者割当増資をするとの未公開事実を知って同社の株を買い付けたことで約1300万円の課徴金納付命令勧告がされています。
また、大手スーパーマーケット会社の役員がすでに傘下にあった別のスーパーマーケット会社の株を公開買付けするとの未公開事実を知って傘下にあった同会社の株を買い付けた、また、これを知人等3人に知らせたことにより同知人等も同会社の株を買い付けたことで合計約600万円の課徴金納付命令勧告がされています。
世界的に有名な電機メーカーの社員もこれと同様のインサイダー取引規制違反で約290万円の課徴金納付命令勧告がされています。
このように、繰り返しインサイダー取引についての役職員教育が施され、また、内部における株式等の事前届出制や情報管理を徹底しているはずの有名会社においてもインサイダー取引を防止できていない実情があります。

今回の事例集には「上場会社における内部者取引管理態勢の状況について」と題する問題提起が付け加えられています。インサイダー取引規制違反件数の増加や有名企業の役職員によるインサイダー取引という実情に証券取引等監視委員会は危機感をもったのかもしれません。
その中では、概略、内部者取引に係る管理規程が現行の金融商品取引法と合致していない事例があること、社内に情報管理責任者や情報を統括する部署が設置されていても必ずしもこれらの管理態勢が適正に運営されていないこと、自社や他社の株取引に関する売買管理態勢が適正でない(規定に反して届け出なく売買が行われ、それが見過ごされている)こと、インサイダー取引に関する社内研修がされていても形式的に紹介するだけとなっていることが指摘されています。
インサイダー取引を未然に防止するために制度の整備をすることは当然ですが、それが実効性をもって運用されることが重要です。
会社としては、やるべきことをやっているので大丈夫と安心することなく、常によリ実効性ある取組みをとりいれなければなりません。
そのためには、他社に追随することで事足れりとするのではなく、自社の社内風土や従業員の意識など各社の個性に応じた取り組みをしていく必要があるといえるでしょう。