<ポイント>
◆持株会社など「最終完全親会社等」の株主が提訴請求できる
◆重要な規模の子会社の取締役の責任追及に限られる
◆親会社に損害が生じていなければ、提訴請求できない
今年6月20日成立、2015年4月施行見通し(未定)の改正会社法では、多重代表訴訟制度が導入されています。
これは親会社(B社)の株主による子会社(A社)の取締役の責任追及を可能にするものですが、いろいろな制限(要件)があります。
まず、ここでいう親会社(B社)の株主とは「最終完全親会社等」の株主でなければなりません。
すなわち、B社がA社の100%親会社であって、B社にさらなる完全親会社等がない「最終完全親会社等」でなければなりません。
ここで100%親会社としたのは、A社の発行済み株式の全部について、B社単独で有する場合(完全親会社)のみならず、B社の完全子会社等と共同で有する場合、あるいは、B社の完全子会社等を通じて有する場合も含みます。「完全子会社等」とは、株式会社がその株式又は持分の全部を有する法人をいいます。
(なお、「完全親会社」の定義については100%親会社と同等のものとして法務省令で定める株式会社も含みます。)
持株会社や企業グループの中核である親会社が想定されています。
多重代表訴訟の原告適格の第一の要件は、「最終完全親会社等」の株主であること、と言い換えることもできるでしょう(以下では、「最終完全親会社等」を親会社と言います。)。
ただし、通常の代表訴訟と異なり、親会社の議決権の100分の1以上、または、発行済み株式の100分の1以上の株式を有する株主でなければなりません。
親会社の株主と子会社との関係は間接的なものにすぎないので、100分の1以上の議決権または株式数という要件が課せられています。
この「100分の1」は定款で引き下げることもできます。
なお、親会社が公開会社である場合には、この要件を、子会社に対する提訴請求の前6か月間、引き続き満たしている必要があります(6か月を定款で短縮することもできます)。
親会社が公開会社でなければ、この期間要件の適用はありません。子会社に対する提訴請求に際して、100分の1の要件を満たしていればよいということになります。
そして、この多重代表訴訟による子会社の取締役責任追及ができるのは、親会社(及びその完全子会等)において計上された子会社の株式の帳簿価額が、親会社の総資産額の5分の1を超える場合に限られます。
つまり、親会社(最終完全親会社等という意味ですが)からみて重要な規模の子会社に限って、その子会社の取締役の責任追及を可能にしているということです。
この「5分の1」も定款で引き下げることができます。
この「5分の1」の要件の基準時は、「子会社の(当該)取締役の責任の原因となった事実が生じた日」、つまり、当該責任追及の対象たる行為のあった日とされています。
言い換えますと、親会社の株主が子会社の取締役の責任追及を問おうとする場面において、その責任の原因たる行為の日における子会社株式の帳簿価格が、親会社の総資産額の5分の1を超えていて初めて、当該子会社の取締役の責任追及が可能となるということになります。
このような要件を満たす責任追及の訴えを、会社法では「特定責任追及の訴え」と定義しています。
前述した要件を満たす親会社の株主は、直接に子会社に対し、子会社取締役の特定責任追及の訴えを提起することを請求できます。親会社に対して、子会社取締役の責任追及の訴え提起を請求するのではありません。
親会社の株主から提訴請求を受け、その請求日から60日以内に子会社がその取締役への特定責任追及の訴えを提起しない場合は、その請求をした(親会社の)株主は、子会社のために、その子会社の取締役に対して特定責任追及の訴えを自ら提起することができます。
60日の期間経過により子会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、親会社の株主は、その期間経過を待たずとも直ちに子会社の取締役に対して特定責任追及の訴えを提起することができます。
この特定責任追及の訴えは親会社ではなく、子会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄、つまりその地方裁判所でしか起こせません。
あくまで親会社の株主の権限を強化するための訴訟制度ですので、子会社に損害が生じていても、親会社に損害生じていない場合には、子会社の損害を理由に特定責任追及の提訴請求をすることはできません。
特定責任追及の訴えがその親会社の株主や第三者の不正な利益を図ることを目的としたり、その子会社または親会社に損害を加えることを目的とする場合に提訴請求できないことは、通常の代表訴訟と同様です。