2014年08月01日

今年のIPBA(Inter―Pacific Bar Association、環太平洋法律家協会)の総会は、約20年前に私が留学したカナダのバンクーバーで開催された。開催日は5月8日から11日までであり、5月の連休の直後であったため、連休を使って当時の友人と旧交温めたりするために早めに現地入りをした。
このエッセイの連載でもIPBAのことは何度から書いてきたが、環太平洋でビジネスローを取り扱う弁護士が弁護士間の情報ネットワークをつくる機会を提供することを目的とした団体で、1年に1度、各国の持ち回りで開催される総会が主たる活動である。私は、2010年のシンガポール総会から今回まで5年連続で出席しており、顔見知りの外国人弁護士(日本で生まれ育った日本国籍の人だが弁護士資格を外国で取得した方もいる)も増えてきた。1年に1回しか会わない方が殆どだが、会えば1年間のブランクを感じることなく親しく話しができるというのは楽しいものである。

バンクーバーは私が1996年中頃から1999年初めにかけて約2年半の留学生活を過ごした街である。その後は2006年に2日間くらい滞在したが、今回は久しぶりにじっくりとバンクーバー滞在を楽しんだ。まず、驚いたのはスカイトレインという電車が整備されて非常に便利になったことである。私の留学時代には郊外の住宅地へ向かう線が1本あっただけだが、空港から中心地に向かう線が新設されたりしていた。以前はバスしかなかったので、特にダウンタウンからは橋を渡らないといけないこともあって時間が読めない不便があったが、空港線のおかげでそのような不便はなくなった。考えてみれば世界の主要空港で空港から中心地まで電車またはそれに類似する交通手段がないところは殆どないであろうから、その意味でも主要都市への仲間入りであり喜ばしい限りである。新しくなったといえば、私が学んだUBCのロースクールも新築されてガラス張りの壮麗な建物となっていた。当時の面影は全くなくなっており、これには少し寂しい思いを感じた。
バンクーバーでの物価はとにかく高くなっていた。日常用品も物によっては日本より高くなっている。電池などは日本の倍くらいするのではないだろうか。今回はレンタカーを借りたりしたが、駐車料金がほぼ大阪と同じであった。以前は数分の1だったのにと恨めしい思いをした。いまだに日本の方が明らかに安いのはゴルフ代くらいではないかと思う(その差は相当に縮まっているが)。また、中華料理の飲茶(ヤムチャ)の店がダウンタウンからほぼ消えていたのはがっかりした。今回のバンクーバー総会には大阪弁護士会のIPBAメンバー達を誘ったのだが、誘い文句の一つが「飲茶が安くて旨い」ということだったのに、お店がないのでは面目丸つぶれである。どうやら、郊外の住宅地、特にリッチモンドという大半の住民が中国系である市に移ったようだ。私は、郊外に住む友人宅を訪ねて美味しい飲茶をご馳走になったので満足したが、食べられなかった大阪弁護士会の参加メンバーには申し訳ないことであった。それでも、留学中に住んでいた家の近くにあった北京ダック専門のチャイニーズレストランが留学中と全く同じメニュー、値段で営業を続けてくれていたのがとても嬉しかった。

IPBA総会では、私は倒産法制や国際取引法、各国の紛争解決機関についての比較などのセッションに出席し有益な情報を得られたが、それ以上に約15年振りに日系人弁護士の友人と再会できたことが本当に嬉しかった。留学当時、当事務所と提携していたバンクーバーの法律事務所に出入りしていたのだが、彼とはそこで出会って家族ぐるみで付き合いをさせてもらっていた。その後は彼が別の事務所に移ったこともあって疎遠になっていたのだ。日本企業のクライアントもいて時々日本に来ているということで、日本での再会を約束して別れた。その他にもUBC時代の友人とも再会でき、私にとって非常に楽しく有意義なものとなった。

最後に、今回のバンクーバー総会に先立つ5月4日にバンクーバーマラソンがあり、それもまた今回の旅行の大きな目的であった。私にとって初めての海外遠征である。雨の降る寒い中(日本の3月くらいの気温)、時差ボケで十分な睡眠も取れていないこともあって、タイムは初めから期待しておらず、最後まで走ってゴールすることを目標としていた。結局、タイムは初マラソンと同じくらいであったが、レース後に大阪弁護士会から参加していたもうひとりの弁護士と厳しいコンディションの中での健闘を讃えあった。コースはクイーンエリザベスパークという美しい庭園のある市内の代表的な公園をスタートして、綺麗な住宅街を抜けてUBCのある半島を回って海岸沿いに走り、もう一つの代表的な公園であるスタンレーパークを一周(約10km)して今回のIPBA総会の会場でもあるカナダプレイスの前でゴールだった。その行程はずっと美しい住宅街、自然、風景を望むところを走るもので、私としてはそれらを堪能することができた。数年以内にもう一度このマラソンに参加したいと思っている。